「青=現代語訳」
月=名詞
の=格助詞
いと=副詞
明かき=ク活用の形容詞「明かし(あかし)」の連体形
夜=名詞
嫗(おうな)ども=名詞、おばあさん。「ども」は接尾語で、意味は呼びかけ。
いざ=感動詞、さあ
給へ=ハ行四段動詞「給ふ」の命令形。尊敬語。ここでは「いらっしゃい」と言う意味で使われている。動作の主体であるおばを敬っている。
寺=名詞
に=格助詞
尊き=ク活用の形容詞「尊し」の連体形
業(わざ)=名詞、仏事、法事、法会。おこなひ、動作、しわざ、仕事
す=サ変動詞「す」の終止形、する
なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。この「なり」には「伝聞・推定」の二つの意味がある。直前に終止形が来ているため「断定・存在」の助動詞「なり」ではない。この「なり」の「推定」は音を根拠に行う推定であり、音声を表すような言葉が前に出てきていないことから「伝聞」の意味だろうと判断できる。
見せ=サ行下二段動詞「見す」の連用形
奉ら=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の未然形、謙譲語。動作の対象(見せられる人)であるおばを敬っている。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
月のいと明かき夜、「嫗ども、いざ給へ。寺に尊きわざすなる、見せ奉らむ。」
月がたいそう明るい夜、「おばあさんよ、さあいらっしゃい。寺で尊い法会をするということです。お見せしましょう。」
と=格助詞
言ひ=ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
限りなく=ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
喜び=バ行四段動詞「喜ぶ」の連用形
て=接続助詞
負は=ハ行四段動詞「負ふ」の未然形
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
と言ひければ、限りなく喜びて負はれにけり。
と(男が)言ったので、(おばは)この上なく喜んで背負われた。
高き=ク活用の形容詞「高し」の連体形
山=名詞
の=格助詞
ふもと(麓)=名詞
に=格助詞
住み=マ行四段動詞「住む」の連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
そ=代名詞
の=格助詞
山=名詞
に=格助詞
はるばると=副詞
入り=ラ行四段動詞「入る」の連用形
て=接続助詞
高き山のふもとに住みければ、その山にはるばると入りて、
高い山のふもとに住んでいたので、その山にはるばると入って、
高き=ク活用の形容詞「高し」の連体形
山=名詞
の=格助詞
峰(みね)=名詞
の=格助詞、用法は同格。「高き山の峰の、下り来べくもあらぬに」→「高い山で、下りて来れそうもない所(峰)に」
おり来(く)=カ変動詞「下(お)り来(く)」の終止形。直後に接続が終止形となる助動詞「べし」が来ているため終止形となり、「く」と読む。
べく=可能の助動詞「べし」の連用形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。基本的に文脈判断。
も=係助詞
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。直後に体言である「所(峰)」が省略されているので連体形となっている。
に=格助詞
置き=カ行四段動詞「置く」の連用形
て=接続助詞
逃げ=ガ行下二段動詞「逃ぐ」の連用形
て=接続助詞
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形。直後に接続が連用形となる助動詞「ぬ」が来ているため連用形となり、「き」と読む。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。この「ぬ」は文末に来ており、係助詞も見当たらないため終止形だと判断できるので、打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」ではないと分かる。
高き山の峰の、おり来べくもあらぬに、置きて逃げて来ぬ。
高い山の峰で、下りて来られそうもない所に、(おばを)置いて逃げてきた。
やや=感動詞、呼びかけるときに使う言葉、これこれ、おいおい、もしもし
と=格助詞
言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
答へ/応へ(いらへ)=名詞、返事、返答。
も=係助詞
せ=サ変動詞「す」の未然形
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
逃げ=ガ行下二段動詞「逃ぐ」の連用形
て=接続助詞
家=名詞
に=格助詞
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形
て=接続助詞
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
をる=補助動詞ラ変「居り(をり)」の連体形。動作・状態の存続を表す。~ている
に=接続助詞
「やや。」 と言へど、いらへもせで、逃げて家に来て思ひをるに、
「おいおい。」と言うけれども、返事もしないで、逃げて家に帰ってきて考えていると、
言ひ=ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
腹立て=タ行下二動詞「腹立つ」の連用形、腹を立てさせる、怒らせる
※四段と下二段の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わる。
例:「慰めかねつ」→「心を慰められなかった」慰め(下二・連用形)
「慰みかねつ」→「心が安まらなかった」慰み(四段・連用形)
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
折(おり)=名詞、時、場合、機会
は=係助詞
腹立ち=タ行四段動詞「腹立つ」の連用形、腹が立つ、怒る
て=接続助詞
斯く(かく)=副詞、このように、こう。ここではおばを山奥に捨ててきたことを指している
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
言ひ腹立てける折は、腹立ちてかくしつれど、
(妻が姑の悪口を)言って腹を立てさせたときは、腹が立ってこのようにしてしまったが、
年ごろ=名詞、長年
親=名詞
の=格助詞
ごと=比況の助動詞「ごとし」の語幹、~のように
養ひ=ハ行四段動詞「養ふ」の連用形
つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、の意味があり、ここでは②継続「~し続けて」の意味だと思われる。
あひ添ひ=ハ行四段動詞「あひ添ふ」の連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
いと=副詞
悲しく=シク活用の形容詞「悲し」の連用形
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
年ごろ親のごと養ひつつあひ添ひにければ、いと悲しくおぼえけり。
長年親のように(男を)養い続け、一緒に生活してきたので、たいそう悲しく思われた。
こ=代名詞
の=格助詞
山=名詞
の=格助詞
上格助詞
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
月=名詞
も=係助詞
いと=副詞
限りなく=ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
あかく=ク活用の形容詞「明かし」の連用形
出で=ダ行下二段動詞「出づ」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
を=格助詞
ながめ=マ行四段動詞「眺む(ながむ)」の連用形。「眺む」は物思いにふけるといった意味もある。「詠む(ながむ)」だと詩歌などを読む、つくるといった意味もある。また、名詞「長雨(ながめ)」などもあり、和歌での掛詞に注意すべき単語である。
て=接続助詞
夜一夜(よひとよ)=名詞、一晩中。対義語「日一日(ひひとひ)」。副詞ではあるが「夜(よ)もすがら」=「一晩中」というのもある。「夜もすがら」⇔「日もすがら」
寝(い)=名詞、単独では使われず、動詞の「寝(ぬ)」とともに用いられる。あまり気にしなくて良い。
も=係助詞
寝(ね)=ナ行下二段動詞「寝(ぬ)」の未然形
られ=可能の助動詞「らる」の未然形、接続は未然形。「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられた。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。
ず=打消しの助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
この山の上より、月もいと限りなくあかく出でたるをながめて、夜ひと夜、寝も寝られず、
この山の上から、月がたいそうこの上なく明るく出ているのを眺めて、一晩中寝られず、
悲しう=シク活用の形容詞「悲し」の連用形が音便化したもの
おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
斯く(かく)=副詞、このように、こう
詠み=マ行四段動詞「詠む(よむ)」の連用形
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
悲しうおぼえければ、かく詠みたりける。
悲しく思われたので、このように詠んだ。
わ=代名詞
が=格助詞
心=名詞
なぐさめかね=ナ行下二段動詞「慰め兼ぬ」の連用形、慰め(連用形)に接尾語「かぬ」が付いたもの。「かぬ」が付くと「~できない・~するのが難しい」の意味が加わる。現代で「~しかねます。」と言ったりするのと同じものである。
つ=完了の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。ここが終止形であるので、この和歌は二句切れである。
更級(さらしな)=名詞
や=間投助詞、ここでの意味は詠嘆
姨捨山(おばすてやま)=名詞
に=格助詞
照る=ラ行四段動詞「照る」の連体形
月=名詞
を=格助詞
見=マ行上一段動詞「見る」の連用形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」
て=接続助詞
わが心 なぐさめかねつ 更級や 姨捨山に 照る月を見て
私の心を慰めることができない。更級の姨捨山に照る月を見ていると。
と=格助詞
詠み=マ行四段動詞「詠む(よむ)」の連用形
て=接続助詞
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
また=副詞
行き=カ行四段動詞「行く」の連用形
て=接続助詞
迎へ=ハ行下二段動詞「迎ふ(むかふ)」の連用形
もて来(き)=カ変動詞「もて来(く)」の連用形。直後に接続は連用形となる助動詞「ぬ」が来ているため連用形となるので「来(き)」と読む。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」があるため連体形となっている。係り結び。
と詠みてなむ、また行きて迎へもて来にける。
と詠んで、また(山へ戻って)行って(おばを)迎え連れてきた。
それ=代名詞
より=格助詞、(起点)~から。(手段・用法)~で。(経過点)~を通って。(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや。
のち=名詞
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
姨捨山(おばすてやま)=名詞
と=格助詞
言ひ=ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」があるため連体形となっている。係り結び。
それよりのちなむ、姨捨山と言ひける。
それより後、(この山を)姨捨山と言うようになった。
なぐさめがたし=ク活用の形容詞「慰め難し(なぐさめがたし)」の終止形。慰め難い
と=格助詞
は=係助詞
これ=代名詞
が=格助詞
由=名詞、物事のいはれ、由来、由緒
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あり=補助動詞ラ変「あり」の連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」があるため連体形となっている。係り結び。
なぐさめがたしとは、これが由になむありける。
「慰め難い」と(言う時、姨捨山を引き合いに出すの)は、このようなことが由来であるのだ。