古文

大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(1)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら大鏡『菅原道真の左遷』現代語訳(1)(2)

 

(だい)()(みかど)(おおん)(とき)、この大臣(おとど)、左大臣の位て年いと若くておはします

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である左大臣(=藤原時平)を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

醍醐天皇の御代(みよ)に、この大臣(=藤原時平)は、左大臣の位で歳はたいそう若くていらっしゃいます。

 

 

菅原(すがわら)の大臣、右大臣の位おはします。その折、帝御年いと若くおはします

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である帝(=醍醐天皇)を敬っている。作者からの敬意。

 

菅原の大臣(=菅原道真)は右大臣の位でいらっしゃいます。その時、帝はたいそう若くていらっしゃいます。

 

 

()()の大臣に世の(まつりごと)を行ふべき よし(せん)()下さしめ 給へ  に、

 

べき=命令の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

由(よし)=名詞、旨、趣旨、事情

 

宣旨(せんじ)=名詞、天皇の命令を伝える公文書

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である左右の大臣(=道真と時平)を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語

 

り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

左右の大臣(=道真と時平)に世の中の政治を行うようにという旨の宣旨を(帝が)下しなさったのだが、

 

 

その、左大臣、御年二十八、九ばかり なり

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

 

ばかり=副助詞、(程度)~ほど・ぐらい。(限定)~だけ。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

その時、左大臣(=藤原時平)のお年は、28、9ぐらいであった。

 

 

右大臣の御年五十七、八  おはしまし けむ

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

おはしまし=補助動詞サ行四段「おはします」の連用形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

右大臣(=菅原道真)のお年は57、8でいらっしゃっただろう。

 

 

ともに世の政を しめ 給ひ 間、

 

せ=サ変動詞「す」の未然形、する。

 

しめ=尊敬の助動詞「しむ」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である左右の大臣(=道真と時平)を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

(道真と時平が)一緒に政治をなさっていた間、

 

 

右大臣は(ざえ)世にすぐれ めでたく おはしまし、御心おきても、ことのほかに かしこく おはします

 

すぐれ=ラ行下二段動詞「優る/勝る(すぐる)」の連用形、すぐれる、他よりまさる。

 

めでたく=ク活用の形容詞「めでたし」の連用形、みごとだ、すばらしい。魅力的だ、心惹かれる。

 

おはしまし=補助動詞サ行四段「おはします」の連用形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

ことのほかに=ナリ活用の形容動詞「事の外なり・殊の外なり(ことのほかなり)」の連用形、特別だ、格別だ。意外だ、思ってもいないことだ。

 

かしこく=ク活用の形容詞「畏し/賢し(かしこし)」の連用形。連用形だと「たいそう、非常に」の意味。その他の意味として、恐れ多い、尊い。もったいない、かたじけない。賢い、優れている。

 

おはします=補助動詞サ行四段「おはします」の終止形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

右大臣(=菅原道真)は(学問などの)才能に優れ、すばらしくていらっしゃり、お心配りも、格別に優れていらっしゃいます。



 

左大臣は御年も若く、才もことのほかに劣り給へ により、右大臣の御おぼえことのほかに おはしまし たるに、

 

ことのほかに=ナリ活用の形容動詞「事の外なり・殊の外なり(ことのほかなり)」の連用形、特別だ、格別だ。意外だ、思ってもいないことだ。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である左大臣(=藤原時平)を敬っている。作者からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

おぼえ=名詞、評判、信望、世間の評判。

 

おはしまし=補助動詞サ行四段「おはします」の連用形。尊敬語。「おはす」より敬意が高い。動作の主体である帝(=醍醐天皇)を敬っている。作者からの敬意。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

左大臣(=藤原時平)はお年も若く、(学問などの)才能も格別に劣っていらっしゃったために、右大臣の(帝からの)信頼は格別でいらっしゃったので、

 

 

左大臣安から 思し たるほどに、

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

思し=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連用形が音便化したもの。「思ふ」の尊敬語。動作の主体である左大臣(=藤原時平)を敬っている。作者からの敬意。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

左大臣は心穏やかでなくお思いになっているうちに、

 

 

さる べき   おはし けむ

 

さる=ラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。

 

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

おはし=補助動詞サ行四段「おはす」の連用形。尊敬語。作者からの敬意。

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

そうなるはずの運命でございましたのでしょうか、

 

 

右大臣の御ためによから こと出で来て、

 

よから=ク活用の形容詞「良し」の未然形、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

右大臣のために良くないことが起こって、

 

 

(しょう)(たい)四年()(つき)二十五日、大宰権帥(だざいのごんのそち)になしたてまつりて、流さ 給ふ

 

たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である右大臣(=菅原道真)を敬っている。作者からの敬意。

 

昌泰四年正月二十五日に、(朝廷が右大臣の菅原道真を)大宰権帥に任命申し上げて、(菅原道真は大宰府へ)流されなさいました。

 

 

続きはこちら大鏡『菅原道真の左遷』解説・品詞分解(2)

 

大鏡『菅原道真の左遷』まとめ

 

 

 

 

-古文