「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
昼つ方、「今日は、なほ 参れ。雪に曇りてあらはに も ある まじ。」など、
なほ=副詞、やはり、そのまま、依然として。さらに。それでもやはり。
参れ=ラ行四段動詞「参る」の命令形、「行く」の謙譲語。動作の対象(参られた人)である中宮定子を敬っている。中宮定子からの敬意。
あらはに=ナリ活用の形容動詞「露なり・顕なり(あらはなり)」の連用形、まる見えだ、露骨だ。明らかだ、はっきりしている。
も=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。
ある=ラ変動詞「あり」の連体形
まじ=打消推量の助動詞「まじ」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)
昼ごろ、(中宮様から)「今日は、やはり(昼間にも)参上しなさい。雪で曇っていて、丸見えでもないでしょう。」などと、
たびたび召せ ば、この局のあるじも、「見苦し。
召せ=サ行四段動詞「召す」の已然形、尊敬語、お呼びになる、呼び寄せる。召し上がる、お食べになる。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
たびたびお呼びになるので、この局(=部屋)の主人も、「見苦しいですよ。
さのみや は籠りたら むとする。
さ=副詞、そう、その通りに、そのように。
や=疑問・反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
たら=存続の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
する=サ変動詞「す」の連体形、する。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
そのように(局に)こもってばかりいようとするのですか。(いや、そのようにこもってばかりいてはいけませんよ。)
あへなきまで御前許され たるは、
あへなき=ク活用の形容詞「あへなし」の連体形、張り合いがない、あっけない。どうしようもない、仕方がない。
御前(おまえ)=名詞、意味は、「貴人」という人物を指すときと、「貴人のそば」という場所を表すときがある。ここでは、場所の意味で使われている。
れ=受身の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
あっけないほど(容易に)中宮様の御前に伺候することが許されたのは、
さ おぼしめすやうこそ あら め。
さ=副詞、そう、その通りに、そのように。
おぼしめす=サ行四段動詞「思し召す(おぼしめす)」の連体形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である中宮定子を敬っている。局のあるじからの敬意。
こそ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
そうお思いになる理由があるのでしょう。
思ふにたがふはにくきものぞ。」と、
たがふ=ハ行四段動詞「違ふ(たがふ)」の連体形、食い違う、相違する。背く。
ぞ=強調の係助詞
ご好意に背くのは腹の立つものですよ。」と言って、
ただいそがしに出だし立つれ ば、
出だし立つれ=タ行下二段動詞「出だし立つれ」の已然形
※四段と下二段の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わる。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
ひたすら急がせて出仕させるので、
あれ にもあらぬ心地すれど 参る ぞ、いと苦しき。
あれ(吾・我)=名詞、私
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
参る=ラ行四段動詞「参る」の連体形、「行く」の謙譲語。動作の対象(参られた人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
苦しき=シク活用の形容詞「苦し」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
自分が自分でない心地がするけれど参上するのは、とてもつらい。
火焼屋の上に降り積みたるも、めづらしう、をかし。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
めづらしう=シク活用の形容詞「珍し」の連用形が音便化したもの
をかし=シク活用の形容詞「をかし」の終止形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
火焼屋の上に(雪が)積もっているのも、珍しく、趣深い。