「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
暁にはとく下りな むといそがるる。
疾く(とく)=ク活用の形容詞「疾し(とし)」の連用形、早い。速い。
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
明け方には早く退出しようと自然と気が急く。
「葛城の神もしばし。」など仰せ らるるを、
仰せ=サ行下二段動詞「仰す(おほす)」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
らるる=尊敬の助動詞「らる」の連体形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも中宮定子を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
「葛城の神(のように夜明けを嫌うあなた)も、もうしばらくは(ここにいてもよいのではないですか)。」などと(中宮様は)おっしゃるが、
いかで か は筋かひ御覧ぜ られ むとて、
いかで=副詞、(疑問・反語で)どうして
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~やは・~かは」とあれば反語の可能性が高い。
御覧ぜ=サ変動詞「御覧ず」の未然形、「見る」の尊敬語。御覧になる。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
られ=受身の助動詞「らる」の未然形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
どうして斜めからでも(私の顔を中宮様に)御覧になられようか(、いや、御覧になられたくない)と思って、
なほ伏したれ ば、御格子も参ら ず。
なほ=副詞、やはり、そのまま、依然として。さらに。それでもやはり。
たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
参ら=ラ行四段動詞「参る」の連用形、謙譲語。動作の対象である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
御格子参る=「御格子をお上げする」、「御格子をお下ろしする」などと訳す
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
そのまま伏せているので、御格子もお上げしていない。
女官ども参りて、「これ、放たせ 給へ。」など言ふを聞きて、
参り=ラ行四段動詞「参る」の連用形、「行く」の謙譲語。動作の対象(参られた人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の命令形、尊敬語。
女官たちが参上して、「これ(=格子)をお開けください。」などと言うのを聞いて、
女房の放つを、「まな。」と仰せ らるれ ば、笑ひて帰りぬ。
まな=感動詞、だめ、するな。
仰せ=サ行下二段動詞「仰す(おほす)」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
らるれ=尊敬の助動詞「らる」の已然形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも中宮定子を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
(他の)女房が開けるのを、「(開けては)いけません。」と(中宮様が)おっしゃるので、(女房は)笑って帰ってしまった。
ものなど問はせ 給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれ ば、
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。
のたまはする=サ行下二段動詞「のたまはす」の連体形、「言ふ」の尊敬語。「のたまふ」より敬意が強い。おっしゃる。動作の主体である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
久しう=シク活用の形容詞「久し(ひさし)」の連用形が音便化したもの。
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
(その後、中宮様は)何かと質問をなさったり、お話しなさるうちに、長いこと時間がたったので、
「下りまほしうなりに たら む。さらば、はや。
まほしう=希望・願望の助動詞「まほし」の連用形が音便化したもの、接続は未然形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
たら=存続の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形
む=推量の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
さらば=接続語、それならば、それでは
「退出したくなったでしょう。それでは、早く(お下がりなさい)。
夜さりは、とく。」と仰せ らる。
夜さり=名詞、夜、夜になる頃
疾く(とく)=ク活用の形容詞「疾し(とし)」の連用形、早い。速い。
仰せ=サ行下二段動詞「仰す(おほす)」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である中宮定子を敬っている。作者からの敬意。
らる=尊敬の助動詞「らる」の終止形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも中宮定子を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
夜になる頃には、早く(来てください)。」と(中宮様が)おっしゃる。
ゐざり隠るるや遅きと、上げちらし たるに、雪降りに けり。
や遅き=(~する)やいなや、(~する)とすぐに。
や=係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
遅き=ク活用の形容詞「遅し」の連体形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。
上げちらし=サ行四段動詞「上げ散らす」の連用形、乱暴に上げる。
散らす=補助動詞サ行四段、荒々しく…する、むやみに…する。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去、あるいは詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
(中宮様の前から)膝をついたまま(後ろに下がって)隠れるやいなや、(女房たちが格子を)乱暴に上げると、(外は)雪が降っていた。
登華殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。
御前(おまえ)=名詞、意味は、「貴人」という人物を指すときと、「貴人のそば」という場所を表すときがある。ここでは、場所の意味で使われている。
立蔀(たてじとみ)=名詞、板戸
せばし=ク活用の形容詞「狭し(せばし)」の終止形、狭い。
をかし=シク活用の形容詞「をかし」の終止形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
登花殿の前のお庭は、立蔀(=板戸)が近くて狭い。(しかし、)雪景色はたいそう趣がある。
続きはこちら枕草子『宮に初めて参りたるころ』解説・品詞分解(3)