解答はこちら平家物語『木曾の最期』(1)問題の解答
木曾左馬頭(きそのさまのかみ)、その日の装束には、赤地の錦の①直垂に、唐綾縅(からあやおどし)の鎧着て、鍬形打つたる甲の緒締め、いか物づくりの大太刀はき、石打ちの矢の、その日のいくさに射て少々残つたるを、頭高(かしらだか)に負ひなし、滋籘(しげどう)の弓持つて、②聞こゆる木曾の鬼葦毛(おにあしげ)といふ馬の、きはめて太うたくましいに、金覆輪(きんぶくりん)の鞍(くら)置いてぞ乗つたりける。
鐙(あぶみ)ふんばり立ち上がり、大音声をあげて名のりけるは、「昔は聞き③けんものを、木曾の冠者(かんじゃ)、今は④見る⑤らん、左馬頭兼 伊予守(いよのかみ)、朝日将軍源義仲ぞや。⑥甲斐の一条次郎とこそ聞け。互によいかたきぞ。義仲討つて⑦兵衛佐(ひょうえのすけ)に見せよや」とて、をめいて駆く。
一条次郎、「ただいま名のるは大将軍ぞ。余すな者ども、もらすな若党、討てや」とて、大勢の中に取りこめて、われ討つ取らんとぞ進みける。木曾三百余騎、六千余騎が中を縦さま・横さま・蜘蛛手(くもで)・十文字に駆け割つて、後ろへつつと出でたれば、五十騎ばかりになりにけり。
そこを破つて行くほどに、土肥次郎実平(どいのじろうさねひら)二千余騎で⑧支へたり。それをも破つて行くほどに、あそこでは四、五百騎、ここでは二、三百騎、百四、五十騎、百騎ばかりが中を駆け割り駆け割り行くほどに、⑨主従五騎にぞなりにける。五騎がうちまで巴は討たれざりけり。
木曾殿、「おのれは⑩とうとう、女なれば、いづちへも行け。われは討死(うちじに)せ⑪んと思ふなり。もし人手にかからば⑫自害をせんずれば、『木曾殿の、最後のいくさに女を⑬具せられたりけり』なんど言はれ⑭んことも、⑮しかるべからず」とのたまひけれども、
なほ落ちも行かざりけるが、あまりに言はれ奉りて、「あつぱれ、よからう敵(かたき)がな。最後のいくさして見せ⑯奉らん」とて、控へたるところに、武蔵国に聞こえたる大力(だいぢから)、御田八郎師重(おんだのはちらうもろしげ)、三十騎ばかりで出で来たり。巴、その中へ駆け入り、御田八郎に押し並べ、むずと取つて引き落とし、わが乗つたる鞍(くら)の前輪(まへわ)に押しつけて、ちつとも動かさず、首ねぢ切つて⑰捨ててんげり。
その後物の具脱ぎ捨て、東国の方(かた)へ落ちぞ行く。手塚太郎(てづかのたろう)討死す。手塚別当(てづかのべつたう)落ちにけり。
問題1.「①直垂」の漢字の読みを答えよ
①
問題2.②聞こゆる、⑧支へたり、⑩とうとう、⑮しかるべからず、のここでの意味を答えよ。
②
⑧
⑩
⑮
問題3.③けん、⑤らん、⑪ん、⑭ん、の助動詞の文法的意味として、「ア~シ」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.推量 イ.意志 ウ.勧誘 エ.仮定 オ.打消 カ.現在推量 キ.現在の伝聞 ク.現在の婉曲 ケ.過去推量 コ.過去の伝聞 サ.過去の婉曲 シ.推定
③
⑤
⑪
⑭
問題4.「⑯奉ら」の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)はどれであるか答えよ。また、誰が誰を敬っているか(敬意の対象は誰か)か答えよ。
敬語の種類:
誰から誰への敬意:
問題5.「④見る」の主語は誰であるか答えよ。
④
問題6.「⑦兵衛佐」とは誰のことか、本名で答えよ。
⑦
問題7.「⑨主従五騎」とあるが、この場面において元々どれくらいの数がいて五騎になったのか、本文中から抜出して答えよ。
⑨
問題8.「⑥甲斐の一条次郎とこそ聞け」の現代語訳を答えよ。
現代語訳:
問題9.⑫自害をせんずれば、⑬具せられたりけり、⑰捨ててんげり、を例にならって品詞分解し、現代語訳を答えよ。
例:「い は/れ/ず。」
⑫「自 害 を せ ん ず れ ば」
⑫現代語訳:
⑬「具 せ ら れ た り け り」
⑬現代語訳:
⑰「捨 て て ん げ り」
⑰現代語訳: