「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら源氏物語『若紫/北山の垣間見』(2)問題
清げなる大人二人ばかり、さては童女ぞ出で入り遊ぶ。中に十ばかりにやあら①むと見えて、白き衣、山吹などのなえたる着て、走り来たる女子、あまた見えつる子供に似るべうもあらず、②いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり。髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、③顔はいと赤くすりなして立てり。
「何事ぞや。童べと腹立ち④たまへ⑤るか」とて、尼君の見上げたるに、少し⑥おぼえたるところあれば、子⑦なめりと見⑧たまふ。「すずめの子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちにこめたりつるものを。」とて、いと⑨くちをしと思へり。
このゐたる大人、「例の、⑩心なしの、かかるわざをしてさいなま⑪るるこそ、いと⑫心づきなけれ。いづ方へか⑬まかり⑭ぬる。⑮いとをかしう、やうやうなりつるものを。⑯からすなどもこそ見つくれ」とて立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、⑰目安き人なめり。少納言の⑱乳母とぞ人言ふ⑲めるは、この子の後見なる⑳べし。
問題1.⑱乳母、の漢字の読みを答えよ。
⑱めのと
問題2.⑥おぼゆ、⑨くちをし、⑩心なし、⑫心づきなし、⑬まかり、のここでの意味を答えよ。さらに敬語であるものを1つ選んで番号で答え、敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)のどれであるかも答えよ。
⑥似る・おもかげがある
おぼえ=ヤ行下二動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」」の連用形。似る、おもかげがある。感じる、思われる。思い出される。
⑨残念だ・くやしい
口惜し=シク活用の形容詞「口惜し(くちをし)」の終止形、くやしい、残念だ
⑩うっかり者・不注意な者
心なし=名詞、うっかり者、不注意な者
⑫気に食わない・不愉快だ
心づきなけれ=ク活用の形容詞「心づきなし」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。気に食わない、不愉快だ、心が引かれない。
⑬退出する・出て行く
まかり=ラ行四段動詞「まかる」の連用形、謙譲語。退出する。身分の高い人の所から退出するということ。反対語=参る(謙譲語:身分の高い人の所へ行く、参上する)
敬語:⑬
敬語の種類:謙譲語
問題3.①む、⑤る、⑪るる、⑭ぬる、⑲める、⑳べし、の助動詞の文法的意味として、「ア~ス」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.過去 イ.完了 ウ.受身 エ.尊敬 オ.自発 カ.可能 キ.推量 ク.意志 ケ.勧誘 コ.婉曲 サ.推定 シ.伝聞 ス.当然
①キ.推量
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」の結びとなっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
⑤イ.完了
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。
⑪ウ.受身
るる=受身の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
⑭イ.完了
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
⑲サ.推定
める=推定の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
⑳キ.推量
べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
問題5.④たまへ、⑧たまふ、の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰から誰に対する敬意かを解答例に従って答えなさい。
ア.光源氏 イ.尼君 ウ.藤壺 エ.若紫 オ.惟光朝臣 カ.作者
【解答例;㊿参る:謙譲語・ア→イ】(謙譲語であり、光源氏から尼君へ敬意が払われているということ)
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
④尊敬語・イ→エ
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である子供(若紫)を敬っている。尼君からの敬意。
⑧尊敬語・カ→ア
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
問題6.「②いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり」、「③顔はいと赤くすりなして立てり」、「⑮いとをかしう、やうやうなりつるものを」、「⑯からすなどもこそ見つくれ」、「⑰目安き人なめり」、の現代語訳を答えよ。
②たいそう成長後(の美しさ)が見えて、かわいらしい容貌である
いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
生ひ先=名詞、成長していく先、将来
うつくしげなる=形容動詞の連体形、かわいらしい様子である
かたち=名詞、容貌、姿、顔立ち
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
③顔は(手で)こすってひどく赤くして立っている
すりなし=サ行四段動詞「擦りなす(すりなす)」の連用形、こすって・・・にする
立て=タ行四段動詞「立つ」の已然形。「立つ」は下二段動詞でもあり、その時は「立たせる」と言う意味になる。
※四段と下二段の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わる。
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。
⑮たいそうかわいらしく、だんだんなってきたのに
をかしう=シク活用の形容詞「をかし」の連用形が音便化したもの。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招く(をく)」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
やうやう=副詞、だんだん、しだいに
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
ものを=逆接の接続助動詞、接続は連体形
⑯カラスなどが見つけたら大変だ
も=強調の係助詞
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
※係り結びの用法:危惧「もぞ」「もこそ」…「~しては大変だ・困る」
(例)「人もこそ聞け」…「人が聞いては困る」
見つくれ=カ行下二段動詞「見つく」の已然形、見つける、発見する
⑰見た目の悪くない人(=感じがよい)人のようである
目安き=ク活用の形容詞「目安し」の連体形、見た目が悪くない、見苦しくない、感じがよい
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
問題7.「⑦なめり」を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
品詞分解:「⑦な/め り」
な=助動詞・断定・連体形
めり=助動詞・推定・終止形
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。