「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら源氏物語『若紫/北山の垣間見』(1)問題
日もいと長きに、①つれづれなれば、夕暮れのいたうかすみたるに紛れて、かの小柴垣のもとに立ち出でたまふ。人々は帰したまひて、惟光朝臣とのぞきたまへば、ただこの②西面にしも、持仏すゑたてまつりて、行ふ尼なり③けり。④簾少し上げて、花奉る⑤めり。
中の柱に寄りゐて、⑥脇息の上に経を置きて、いと⑦なやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。四十あまりばかりにて、いと白う⑧あてに、やせたれど、つらつきふくらかに、まみのほど、⑨髪のうつくしげにそがれたる末も、「⑩なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな」と、あはれに見たまふ。
問題1.④簾、⑥脇息、の漢字の読みを答えよ。
④すだれ
⑥きょうそく・けふそく
問題2.①つれづれなり、②西面、⑦なやましげなり、⑧あてなり、のここでの意味を答えよ。
①何もすることがなく手持ちぶさたである・退屈である
つれづれなれ=ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」の已然形、何もすることがなく手持ちぶさたなさま、退屈なさま
②西向きの部屋
⑦だるそうである・大儀そうである・気分が悪そうである
なやましげに=ナリ活用の形容動詞「なやましげなり」の連用形、だるそうである、気分が悪そうである
⑧上品だ
あてに=ナリ活用の形容動詞「貴なり(あてなり)」の連用形。身分が高い、上品だ、高貴である
問題3.③けり、⑤めり、の助動詞の文法的意味として、「ア~ス」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.過去 イ.詠嘆 ウ.完了 エ.受身 オ.尊敬 カ.可能 キ.推量 ク.意志 ケ.婉曲 コ.婉曲 サ.推定 シ.伝聞 ス.断定
③イ.詠嘆
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
⑤サ.推定
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
問題4.「⑨髪のうつくしげにそがれたる末」、「⑩なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな」、の現代語訳を答えよ。
⑨髪の毛がきれいに切りそろえられている毛先
うつくしげに=ナリ活用の形容動詞「美しげなり」の連用形、かわいらしい様子である、美しい様子である
そが=ガ行四段動詞「削ぐ(そぐ)」の未然形。切り落とす、切りそろえる
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」は受身・尊敬・自発・可能の四つの意味がある。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
末=名詞、端、末端
⑩かえって長い(髪)よりもこの上なく現代風なものだなあ
中中(なかなか)=副詞、かえって、むしろ
こよなう=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形が音便化したもの、違いがはなはだしいこと、この上ない、この上なく違う。
今めかしき=シク活用の形容詞「今めかし」の連体形、現代風である
かな=詠嘆の終助詞、接続は体言・連体形