(若紫との出会い)
「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『若紫/北山の垣間見』現代語訳(1)(2)
清げなる大人二人ばかり、さては 童べ ぞ出で入り遊ぶ。
清げなる=ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連体形、さっぱりとして美しい、きちんとしている
さては=接続詞、それから、その他には、それでは
童部(わらわべ)=名詞、召使の子供。童女(わらわめ)=召使の少女
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
遊ぶ=バ行四段動詞「遊ぶ」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
こぎれいな女房が二人ほど、それから召使の少女たちが(部屋を)出たり入ったりして遊んでいる。
中に十ばかりに やあらむと見えて、白き衣、山吹などのなえ たる着て、走り来たる女子、
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形。思われる、感じられる、見える、見られる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
なえ=ヤ行下二段動詞「萎ゆ(なゆ)」の連用形。(衣服などが着なれたりして)やわらかくなる、ぐったりする
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。後の「たる」も同様。
(その遊んでいる少女たちの)中に十歳ぐらいであろうかと思われて、白い下着に、山吹がさねなどの着慣れて柔らかくなったのを着て走ってきた女の子は、
※若紫の登場
あまた見えつる子供に似るべうもあらず、いみじく 生ひ先見えて、うつくしげなる かたち なり。
数多(あまた)=副詞、たくさん、大勢
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形。
べう=当然の助動詞「べし」の連用形が音便化したもの、接続は終止形(ラ変は連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。
いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい
生ひ先=名詞、成長していく先、将来
うつくしげなる=形容動詞の連体形、かわいらしい様子である
かたち=名詞、容貌、姿、顔立ち
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
(その若紫は、)大勢見えていた他の少女たちとは比べられるはずがないほどに、たいそう成長後(の美しさ)が見えて、かわいらしい容貌である。
髪は扇を広げたる やうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立て り。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形
すりなし=サ行四段動詞「擦りなす(すりなす)」の連用形、こすって・・・にする
立て=タ行四段動詞「立つ」の已然形。「立つ」は下二段動詞でもあり、その時は「立たせる」と言う意味になる。
※四段と下二段の両方になる動詞があり、下二段になると「使役」の意味が加わる。
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。
髪は扇を広げたようにゆらゆらとして、顔は(手で)こすってひどく赤くして立っている。
「何事ぞ や。童べと腹立ち 給へ る か。」とて、尼君の見上げたるに、
ぞ=強調の係助詞
や=疑問の係助詞
腹立ち=タ行四段動詞「腹立つ」の連用形、怒る、けんかする
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である子供(若紫)を敬っている。尼君からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。
か=疑問の係助詞
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。
「何事ですか。子供たちとけんかでもなさったのですか。」と言って、尼君が見上げている顔に、
少しおぼえ たるところあれば、子な めりと見給ふ。
おぼえ=ヤ行下二動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」」の連用形。似る、おもかげがある。感じる、思われる。思い出される。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。
(その尼君の顔に)少し似ているところがあるので、(その泣いている少女は)尼君の娘なのだろうと(光源氏は)御覧になる。
「すずめの子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちにこめたり つる ものを。」とて、いと口惜しと思へり。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形。後の「つる」も同様
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形。
ものを=逆接の接続助詞
口惜し=シク活用の形容詞「口惜し(くちをし)」の終止形、くやしい、残念だ
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。
「雀の子を犬君が逃がしてしまったの。伏籠の中に入れておいたのに。」と言って、たいそう残念だと思っている。
このゐ たる大人、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなま るる こそ、いと心づきなけれ。
ゐ=ワ行上一段動詞「居る(ゐる)」の連用形。すわる。とまる、とどまる。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
例=名詞、いつものこと、ふつうのこと。「例の」=「いつもの」
心なし=名詞、うっかり者、不注意な者
かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会
さいなま=マ行四段動詞「さいなむ」の未然形、責める、叱る
るる=受身の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
心づきなけれ=ク活用の形容詞「心づきなし」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。気に食わない、不愉快だ、心が引かれない。
この座っている女房が、「いつもの、うっかり者(=犬君のこと)が、このようなこと(=雀を逃がしたこと)をして叱られるのは、とても気に食わない。
いづ方へか まかり ぬる。
いづ方=代名詞、どこ、どちら、どなた
か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
まかり=ラ行四段動詞「まかる」の連用形、謙譲語。退出する。身分の高い人の所から退出するということ。反対語=参る(謙譲語:身分の高い人の所へ行く、参上する)
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。
どこへ出て行ったのか。
いとをかしう、やうやう なり つる ものを。
をかしう=シク活用の形容詞「をかし」の連用形が音便化したもの。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招く(をく)」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。
やうやう=副詞、だんだん、しだいに
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
ものを=逆接の接続助詞、接続は連体形
たいそうかわいらしく、だんだんなってきたのに。
からすなどもこそ 見つくれ。」とて立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、目安き人な めり。
も=強調の係助詞
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。
※係り結びの用法:危惧「もぞ」「もこそ」…「~しては大変だ・困る」
(例)「人もこそ聞け」…「人が聞いては困る」
見つくれ=カ行下二段動詞「見つく」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。見つける、発見する
ゆるるかに=ナリ活用の形容動詞「ゆるるかなり」の連用形、ゆとりのあるさま、たっぷりとしたさま、ゆるいさま
目安き=ク活用の形容詞「目安し」の連体形、見た目が悪くない、見苦しくない、感じがよい
な=断定の助動詞「なり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「なるめり」→「なんめり(音便化)」→「なめり(無表記化)」。接続は体言・連体形
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
カラスなどが見つけたら大変だ。」と言って立って行く。髪はゆったり(ふさふさ)としてたいそう長く、見た目の悪くない人(=感じがよい)人のようである。
少納言の乳母とぞ人言ふめるは、この子の後見 なる べし。
少納言の乳母=少納言のとこの乳母さん、乳母の父または夫が少納言であるということ。
ぞ=強調の係助詞
める=推定の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。
後見(うしろみ)=世話をする人、後見人。当時は社会的に実力のある父や兄などの男性が「後見」になるが、桐壷には母が後見となっている。なので、宮廷での立場が弱い。
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
少納言の乳母と(他の)人が呼んでいるような人は、この子の世話役なのだろう。
※光源氏は幼いころに亡くした母(桐壷の更衣)によく似た藤壺の更衣に対して恋心をずっと持っていた。
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かなわない恋であったため、満たされない思いからあちこちの女性に手を出した。
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夕顔の死をきっかけに病気を患う。
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病気を治すために来た寺で藤壺によく似た若紫に出合った。
続きはこちら源氏物語『若紫/北山の垣間見』解説・品詞分解(3)