青字=解答・※赤字=注意書き、解説等
問題はこちら源氏物語『桐壺(光源氏の誕生)』(3)問題
母君は初めより①おしなべての上宮仕へしたまふべき②きはにはあらざり③き。おぼえいとやむごとなく、上衆めかしけれど、④わりなくまつはさせ給ふあまりに、さるべき御遊びの折々、何事にもゆゑある事のふしぶしには、⑤先づまう上らせ給ふ。
ある時には大殿ごもり過ぐして、⑥やがてさぶらはせたまひなど、あながちに御前去らず⑦もてなさせたまひしほどに、おのづから軽き方にも見え⑧しを、この御子生まれたまひて後は、⑨いと心ことに思ほしおきてたれば、⑩坊にも、⑪ようせずは、この御子のゐたまふべき⑫な⑬めり」と、一の皇子の女御は思し疑へり。
⑭人より先に参りたまひて、⑮やむごとなき御思ひなべてならず、御子たちなどもおはしませば、この御方の御いさめをのみぞ、なほわづらはしう、⑯心苦しう思ひ聞こえさせたまひける。
⑰かしこき御蔭をば頼み聞こえながら、おとしめ、きずを求め給ふ人は多く、わが身はか弱く、ものはかなきありさまにて、⑱なかなかなるもの思ひをぞし給ふ。御局は桐壺なり。
問題1.①おしなべての、②きは、⑩坊、のここでの意味を答えよ。
①ふつうの・一般の
おしなべて=副詞、すべて、一様に、ふつう、ありきたり
②身分
際(きわ)=名詞、①端、②時・場合、③家柄・身分、④境目、ここでは③家柄・身分
⑩皇太子・東宮・東宮坊
問題2.③き、⑧し、⑫な、⑬めり、の助動詞の文法的意味として、「ア~シ」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.使役 イ.尊敬 ウ.過去 エ.完了 オ.詠嘆 カ.推定 キ.伝聞 ク.断定 ケ.存在 コ.婉曲 サ.仮定 シ.推量
③ウ.過去
き=過去の助動詞「き」の終止形、接続は連用形
⑧ウ.過去
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
⑫ク.断定
な=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形。「なるめり」→「なんめり」(音便化)→「なめり」(無表記)と変化していった。
⑬カ.推定
めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。
問題3.「④わりなくまつはさせ給ふ」、「⑤先づまう上らせ給ふ」、「⑥やがてさぶらはせたまひなど」、「⑦もてなさせたまひしほどに」、の中から使役の助動詞が使われているものを④~⑦の番号で答えよ。
答え:⑤、⑥
問題4.「⑨いと心ことに思ほしおきてたれば」の主語を補って現代語訳せよ。
⑨たいそう格別に心を配り扱いなさったので
心異に=ナリ活用の形容動詞「心異なり」の連用形、(心構えや気配りが)格別である
思ほし=サ行四段動詞「思ほす(おぼほす)」の連用形、「思ふ」の尊敬語、お思いになる。動作の主体である桐壷帝を敬っている。作者からの敬意。
おきて=タ行下二段動詞「おきつ」の連用形、取りはからう、計画する、指図する
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
問題5.「⑪ようせずは」を接続助詞「は」の意味に気を付けて現代語訳せよ。
⑪わるくすると(もしかすると)
※(良う(形容詞)/せ(サ変動詞)/ず/は)
打消の助動詞「ず」の連用形 + は =仮定条件「もし~ならば」という意味になる。もう一つ同類のものとして、形容詞の連用形「~く」 + は=仮定条件「もし~ならば」というものがある。なので、「~ずは」・「~くは」とあれば、仮定条件と言うことに気をつけるべき。この「は」は接続助詞「ば」からきているので、「ば」のまま使われるときもある。
問題6.「⑭人より先に参りたまひて」の「たまひ」は誰を敬っているか(敬意の対象は誰か)人物を答えよ。
※ここでの「給ふ」はすべて尊敬語として使われているので、動作の主体を敬っている。(ちなみに「給ふ」は下二段活用の時は謙譲語として使われる。)
誰を敬っているか:一の御子の女御(弘徽殿の女御) ※「人より先に参った」という動作の主体
問題7.「⑮やむごとなき御思ひなべてならず」、「⑰かしこき御蔭をば頼み聞こえながら」、「⑱なかなかなるもの思ひをぞし給ふ」、の現代語訳を答えよ。
⑮大切になさる気持ちも並ひととおりでなく
やむごとなき=ク活用の形容詞「やんごとなし」の連体形、①捨ててはおけない、②格別だ、並々でない③高貴である、ここでは②並々ではない、格別だの意味だと思われる。
なべて(並べて)=副詞、一般に、すべて、並ひととおり、ふつう
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
⑰(桐壷の更衣は)恐れ多い(桐壷帝の)庇護を頼みに思い申し上げているけれども
かしこき=ク活用の形容詞「畏し(かしこし)」の連体形、恐れ多い、恐れ多いほど尊い
御蔭=名詞、かばってくれる人、庇護、恩恵。
聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象(頼みに思われる人)である桐壷帝を敬っている
ながら=接続助詞、次の③の意味で使われている。
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
⑱かえって(帝のご寵愛をいただかない方が良いといった)思い悩みをしなさる。
なかなかなる=ナリ活用の形容動詞「中中なり(なかなかなり)」の連体形、中途半端なさま、かえって~(しない方がよい)。ここでの意味は、「かえって桐壷帝の寵愛をいただかない方がよい」という感じである。
もの思ひ=名詞、思い悩むこと、心配
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
し=サ変動詞「す」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。動作の主体(思い悩むことをしている人)である桐壷の更衣を敬っている。作者からの敬意。
問題8.「⑯心苦しう思ひ聞えさせたまひける」の中から敬語の意味を持つ語をすべて抜き出し、敬語の種類と誰から誰に対しての敬意の表現であるかを答えよ。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
抜き出す語 |
敬語の種類 |
誰から |
誰に対して |
聞こえ |
謙譲語 |
作者 |
一の御子の女御(弘徽殿の女御) |
させ |
尊敬語 |
作者 |
帝(桐壷帝) |
たまひ |
尊敬語 |
作者 |
帝(桐壷帝) |
聞こえ=ヤ行下二の補助動詞「聞こゆ」の未然形、謙譲語。~し申し上げる、お~する。動作の対象(気の毒に思われる人)である弘徽殿の女御を敬っている。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ているため「使役」か「尊敬」かは文脈判断。ここは「尊敬」の意味であり、直後の「給ひ」とともに動作の主体(気の毒に思う人)である桐壷帝を敬っている。
たまひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。
問題9.「⑯心苦しう思ひ聞えさせたまひける」において、「心苦しう」とは桐壷帝が一の御子の女御(弘徽殿の女御)に対して心苦しいということであるが、それはなぜなのか理由を答えよ。
⑯弘徽殿の女御は他の后よりも先に后として入内なさったうえに、子供もできているにもかかわらず、他の女性(桐壷の更衣)とその子供に対して入れ込んでいるため。
※だいたい合っていれば良い