青字=解答・※赤字=注意書き、解説等
問題はこちら源氏物語『桐壺(光源氏の誕生)』(2)問題
父の大納言は亡くなりて、①母北の方なむいにしへの人のよしあるにて、親うち具し、さしあたりて世の②おぼえはなやかなる御かたがたにもいたう劣らず、何事の儀式をももてなし③給ひけれど、とりたてて④はかばかしき後見しなければ、事とある時は、⑤なほよりどころなく心細げなり。
⑥前の世にも、御契りや深かりけむ、世になく淸らなる、玉の男御子さへ生まれ給ひぬ。⑦いつしかと心もとながらせ給ひて、急ぎ參らせて御覽ずるに、めづらかなる、児の御かたちなり。
⑧一の御子は、右大臣の女御の御腹にて、よせおもく、疑ひなき⑨儲の君と世にもて⑩かしづき聞こゆれど、この御⑪にほひには、並び⑫給ふべくもあらざりければ、おほかたのやんごとなき御思ひにて、⑬この君をば、私物に思ほしかしづき⑭給ふ事限りなし。
問題1.②おぼえ、④はかばかしき、⑨儲の君、⑪にほひ、のここでの意味を答えよ。
②評判・世評・世間での評判
④頼りになる・頼もしい
はかばかしき=シク活用の形容詞「捗々し(はかばかし)」の連体形、思うように物事がはかどる様子、頼もしい、しっかりしている。きわだっている。
⑨皇太子
儲の君=名詞、皇太子。儲け=設けること、準備のことであり、次期皇位の予定者ということである
⑪(見た目での)美しさ・艶のある美しさ
にほひ=名詞、色が美しく映えること、艶のある美しさ。嗅覚ではなく視覚的なことを意味しているので注意。
問題2.③、⑫、⑭、それぞれの「給ふ」が誰を敬っているか(敬意の対象は誰か)人物を答えよ。
※ここでの「給ふ」はすべて尊敬語として使われているので、動作の主体を敬っている。(ちなみに「給ふ」は下二段活用の時は謙譲語として使われる。)
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
③桐壷の更衣の母
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体(儀式の支度を整えた人)である桐壷の母を敬っている。作者からの敬意。
⑫一の御子(第一皇子)
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である第一皇子を敬っている。作者からの敬意。
⑭帝(天皇・桐壷帝)
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。作者からの敬意。
問題3.「①母北の方なむいにしへの人のよしあるにて」、の現代語訳をせよ。
①(桐壷の更衣の)母である大納言の北の方は、昔気質の人で教養のある人であって
北の方=名詞、妻
なむ=強調の係助詞
いにしへのひと=昔気質の人
の=格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「昔気質の人で由緒正しい家柄の人であって、」
由ある=①由緒正しい家柄の②教養のある、③趣がある、ここでの意味は①か②微妙なところ。直後に「人」が省略されているので連体形となっている。「由(名詞)/ある(ラ変動詞の連体形)」
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
問題4.「⑤なほよりどころなく心細げなり」であるのはなぜか、理由を答えよ。
⑤桐壷の更衣には、特に取り上げて頼れる後見人(後ろ盾)がいないから。
※⑤の訳は「やはり頼る所がなく心細そうである」
問題5.「⑥前の世にも、御契りや深かりけむ」、の現代語訳を誰と誰の「御契り」なのかを明らかにして答えよ。
⑥前世においても、帝と更衣のご縁は深かったのだろうか
御契り=名詞、約束、ご縁
や=疑問の係助詞。結びは連体形となる。係り結び。
けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形になっている。文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」だが、文中に来ると「過去の伝聞・婉曲」となることをもとに識別する。
問題6.「⑦いつしかと心もとながらせ給ひて、急ぎ參らせて御覽ずるに」、の現代語訳を主語を補って答えよ。
⑦帝は早く(生まれた皇子を見たい)とじれったく思いなさって、急いで(その皇子を宮中へ)参らせて御覧になると、
※「せ給ひ」の「せ」は尊敬の助動詞、「参らせて」の「せ」は使役の助動詞であることに注意して訳さなければならない。
問題7.「⑧一の御子は、右大臣の女御の御腹にて、よせおもく」、の現代語訳を答えよ。
⑧第一皇子は、右大臣の娘(弘徽殿の女御)がお生みになったお方で、世間の信望も厚く
※御腹=その女性の腹から生まれた子
よせ=名詞、信望、人望。後見のない人物に対してはよせが軽いという
問題8.「⑩かしづき聞こゆれど」、の中に含まれている敬語を抜出し、敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰を敬っているか人物名を答えよ。現代語訳もせよ。
抜出すべき敬語:聞こゆれ
敬語の種類:謙譲語
誰を敬っているか:一の御子(第一皇子)
現代語訳:大切にし申し上げているけれども
もてかしづき=カ行四段動詞「もてかしづく」の連用形、「もて」は接頭語なので気にする必要はない。「かしづく」=カ行四段動詞、大切にする、大切に養い育てる、大切にお世話する
聞こゆれ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の已然形、謙譲語。動作の対象(大切にされている人)である第一御子のことを敬っている。作者からの敬意。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
問題9.「⑬この君」、とは誰のことか答えよ。
⑬光源氏・清らなる玉の男御子
【登場人物】
桐壷帝(帝)
桐壷の更衣
桐壷の更衣の父である大納言
その大納言の北の方(=その大納言の妻=桐壷の更衣の母)
清らなる玉の男御子・この君(=光源氏)
右大臣の女御(=弘徽殿の女御)
右大臣の女御の御腹・一の御子(=第一皇子=朱雀院=光源氏の腹違いの兄)