「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら奥の細道『旅立ち』現代語訳(2)
弥生も末の七日、あけぼのの空朧々として、月は有明にて光をさまれ る ものから、
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
をさまれ=ラ行四段動詞「をさまる」の已然形、消える、弱まる
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ものから=逆接の接続助詞。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接、たまに順接・詠嘆の時がある
陰暦三月も下旬の二十七日、明け方の空はおぼろにかすんで、月は有明の月で光が薄くなっているものの、
富士の峰かすかに見えて、上野、谷中の花の梢またいつか はと心細し。
か=疑問の係助詞、結びは連体形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「見ん」などが省略されていると考えられる。
は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となることが多い。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~かは・~やは」とあれば反語の可能性が高い。しかし、ここでは疑問。
心細し=ク活用の形容詞「心細し」の終止形、心細い、頼りない、不安だ。寂しい。
富士の峰もかすかに見えて、上野や谷中の桜の梢もまたいつの日に(見ることができるだろう)かと心細い気持ちである。
むつまじき限りは宵よりつどひて、舟に乗りて送る。
むつまじき=シク活用の形容詞「むつまじ」の連体形、親しい、親密だ。慕わしい、懐かしい
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
親しい人は残らず(昨日の)晩から集まって、舟に乗って(私を)見送る。
千住といふ所にて舟を上がれば、前途三千里の思ひ胸にふさがりて、幻のちまたに離別の涙をそそぐ。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
幻のちまた=幻のようにはかないこの世での別れ道。
ちまた=名詞、別れ道。町
千住という所で船から上がると、前途三千里もの遠い旅に出るのだという思いで胸がいっぱいになって、幻のようにはかないこの世での別れ道にて涙を流したのだった。
行く春や 鳥啼き魚の 目は涙
や=間投助詞
行く春=季語、春
春も今まさに過ぎようとしている。それを名残惜しんで、鳥は鳴き、魚の目にも涙があふれているようだ。
これを矢立の初めとして行く道なほ進まず。
なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
この句を旅の記の書き初めとして(旅を始めたが、名残惜しくて)、やはり道ははかどらない。
人々は途中に立ち並びて、後ろ影の見ゆるまではと見送るなる べし。
後ろ影(うしろかげ)=名詞、後ろ姿
影(かげ)=名詞、姿、形。光。鏡や水などに移る姿、映像
見ゆる=ヤ行下二動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。ここでは「可能」の意味
なる=断定の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形
べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
人々は途中に立ち並んで、後ろ姿が見える限りはと思って見送っているのであろう。