「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら奥の細道『旅立ち』現代語訳(1)
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
※対句法=二つの句の言葉の組み立て方が似ていて、意味が対応するように並べる表現方法。「月日は百代の過客にして」と「行きかふ年もまた旅人なり」が対句となっている。
月日は永遠の旅人であって、過ぎ去ってはやって来る年もまた旅人である。
船の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして旅を栖とす。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
す=サ変動詞「す」の終止形、する
※対句法=「船の上に生涯を浮かべ」と「馬の口とらへて老いを迎ふる」が対句となっている。
舟の上で一生を過ごす船頭や、馬のくつわをとりながら老いを迎える馬子は、毎日が旅であって旅をすみかとしている。
古人も多く旅に死せ る あり。
死せ=サ変動詞「死す」の未然形。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
(風雅を愛した)昔の人達でも多く旅の途中で亡くなった人がいる。
予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂白の思ひやまず、海浜にさすらへ、
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
私もいつの年からか、ちぎれ雲が風に吹かれて誘われるように、あてもなくさすらう旅をしたいという思いがやまず、海辺をさすらい歩き、
去年の秋、江上の破屋に蜘蛛の古巣をはらひて、やや年も暮れ、
やや=副詞、しだいに、だんだん。ちょっと、いくらか
去年の秋、(隅田)川のほとりのあばら家に帰り、雲の古巣を払って(落ち着いたところ)、しだいに年も暮れ、
春立てる霞の空に、白河の関越えんと、
立てる=掛詞、「春立てる(春になる・立春)」と「立てる霞(霞が立ち込める)」の二つの意味に掛けられている
る=完了・存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
春になって霞が立ち込めている空を見ると、白河の関を超えたいと、
※白河の関=東北地方へ向かうために通過する関所。
そぞろ神の物につきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて取るもの手につかず、
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
※対句法=「そぞろ神の物につきて心を狂はせ」と「道祖神の招きにあひて取るもの手につかず」が対句となっている。
そぞろ神が体にとりついたように心を狂わせ、道祖神が招いているようで取るものも手につかず、
股引の破れをつづり、笠の緒付けかへて、
※対句法=「股引の破れをつづり」と「笠の緒付けかへて」が対句となっている。
ももひきの破れを継ぎ合わし、笠のひもをつけかえて、
三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて、
より=格助詞、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って
三里に灸をすえるやいなや、(有名な)松島の月がまず気になって、
住める方は人に譲り、杉風が別所に移るに、
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
住んでいた家は人に譲り、杉風の別荘に移るときに、
草の戸も 住み替はる代ぞ 雛の家
雛(ひな)=季語、春
私が住んでいた草ぶきの小さな家にも、住み替わる時が来た。私とは違って次の主は妻子のいる人なので、(華やかに)雛人形の飾られる家となることだろう。
表八句を庵の柱に懸け置く。
庵(いおり)=名詞、粗末な仮の宿、草ぶきの質素な家
(と詠んだ)表八句を、庵の柱にかけておいた。
続きはこちら奥の細道『旅立ち』解説・品詞分解(2)