「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら竹取物語『なよ竹のかぐや姫/かぐや姫の生い立ち』解説・品詞分解(1)
今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。
今となっては昔のことであるが、竹取の翁という者がいた。野山に分け入って竹を取っては、それをさまざなことに使っていた。
名をば、さかきの造となむいひける。
名を、さかきの造と言った。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
その竹の中に、根本の光る竹が一本あった。
あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。
不思議に思って近寄って見ると、筒の中が光っていた。
それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
それを見ると、三寸ぐらいの人が、たいそうかわいらしく座っていた。
翁言ふやう、「我が朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて、知りぬ。
翁が言うことには、「私が毎朝毎晩見回っている竹の中にいらっしゃることで、分かった。
子となり給ふべき人なめり。」とて、手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。
我が子とおなりになるはずの人であるようだ。」と言って、手のひらに入れて家へ持って帰って来た。
妻の嫗にあづけて養はす。うつくしきこと限りなし。いと幼ければ籠に入れて養ふ。
妻の嫗に預けて育てさせる。かわいらしいことはこの上ない。たいそう小さいので籠に入れて育てる。
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけてのちに竹取るに、節を隔ててよごとに金ある竹を見つくること重なりぬ。
竹取の翁は、竹を取る際に、この子を見つけて後に竹を取ると、節を隔てて節と節との間ごとに黄金の入っている竹を見つけることがたび重なった。
かくて翁やうやう豊かになりゆく。
こうして翁はだんだんと裕福になってゆく。
(2)
この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。
この子は、育てるにつれて、すくすくと大きく成長していく。
三月ばかりになるほどに、よきほどなる人になりぬれば、髪上げなどさうして、髪上げさせ、裳着す。
三か月ほど経つうちに、人並みの背丈である人になってしまったので、髪上げなどの儀式をあれこれと手配して、髪を結い上げさせ、裳を着せる。
※成人式をしたということ
帳の内よりも出ださず、いつき養ふ。
几帳の中からも出さず、大切に育てる。
この児のかたちけうらなること世になく、屋の内は暗き所なく光満ちたり。
この子の容貌の清らかで美しいことはこの世に比べるものもないほどで、家の中は暗い所もないぐらい光が満ちている。
翁、心地あしく苦しき時も、この子を見れば、苦しき事も止みぬ。腹立たしきことも慰みけり。
翁は、気分が悪く苦しい時も、この子を見ると、苦しい気持ちもおさまってしまう。腹立たしい気持ちも慰むのだった。
翁、竹取ること久しくなりぬ。勢い猛の者になりにけり。
翁は、竹を取ることが長く続いた。勢力の盛んな者になった。
この子いと大きになりぬれば、名を三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす。
この子がたいそう大きくなったので、名前を三室戸斎部の秋田を呼んで名付けさせる。
秋田、なよ竹のかぐや姫とつけつ。
秋田は、なよ竹のかぐや姫と名づけた。
このほど三日うちあげ遊ぶ。よろづの遊びをぞしける。
この時三日間、宴会を開いて管弦の遊びをした。あらゆる管弦の遊びをした。
男はうけきらはず呼び集つどへて、いとかしこく遊ぶ。
男はだれかれかまわず呼び集めて、たいそう盛大に管弦の遊びをする。
世界の男、あてなるもいやしきも、いかでこのかぐや姫を得てしかな、見てしかなと、音に聞きめでて惑ふ。
世の中の男は、身分が高い者も低い者も、どうにかしてこのかぐや姫を妻にしたいものだ、見たいものだと、うわさに聞き、心惹かれて思いが乱れる。
解説・品詞分解はこちら
竹取物語『なよ竹のかぐや姫/かぐや姫の生い立ち』解説・品詞分解(1)
竹取物語『なよ竹のかぐや姫/かぐや姫の生い立ち』解説・品詞分解(2)