「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら徒然草『九月二十日のころ』現代語訳
九月(ながつき)二十日のころ、ある人に誘はれ たてまつりて、
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る」の連用形、謙譲語。動作の対象であるある人を敬っている。作者(吉田兼好)からの敬意。
※尊敬語は動作の主体を敬う
※謙譲語は動作の対象を敬う
※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。
どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。
九月二十日のころに、あるお方に誘われ申して、
明くるまで月見ありく事侍り しに、
明くる=カ行下二段動詞「明く」の連体形
ありく=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の連体形、歩き回る、うろつく。動き回る。
侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。
※「候ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
夜が明けるまで月をみて歩いたことがありましたところ、
思し出づる所ありて、案内せ させて、入り給ひ ぬ。
思し出づる=ダ行下二段動詞「思し出づ(おぼしいづ)」の連体形。「思ひ出づ」の尊敬語。動作の主体であるある人を敬っている。作者からの敬意。
案内せ=サ変動詞「案内す」の未然形、取り次ぎを請う「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「心す」、「御覧ず」
案内(あない)=名詞、取り次ぎを頼むこと。物事の事情、よく知っていること、内情。文書の内容、草案。
させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体であるある人を敬っている。作者からの敬意。
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
(その途中に、)あるお方は思い出しなさった所があって、(従者に)取り次ぎをさせて、(その思い出しなさった所である家に)お入りになった。
荒れたる庭の露しげきに、わざと なら ぬ匂ひしめやかにうち薫りて、
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
の=格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「荒れたる庭の露しげきに」→「荒れている庭で露がたくさん降りている庭に」
しげき=ク活用の形容詞「繁し(しげし)」の連体形、多い、たくさんある。茂っている。絶え間がない、頻繁である。
わざと=副詞、わざわざ、格別に、特別に
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
荒れている庭で露がたくさん降りている庭に、わざわざ用意したものでもないお香の香りがしんみりと香って、
忍び たるけはひ、いとものあはれなり。
忍び=バ行四段動詞「忍ぶ」の連用形、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ものあはれなり=ナリ活用の形容動詞の終止形。なんとなくしみじみと感じる。「もの」は接頭語であり「なんとなく」といった漠然とした様子を表す意味を持つ。
あはれなり=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある
人目を忍んで暮らしている様子には、たいそうしみじみと趣を感じる。
よきほどにて出で給ひ ぬれ ど、
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。動作の主体であるあるお方を敬っている。作者からの敬意。
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。
(あるお方は)程よくして出ておいでになったが、
なほ、事ざまの優に 覚えて、物の隠れよりしばし見ゐたるに、
なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。
優に=ナリ活用の形容動詞「優なり」の連用形、優れていて立派だ。優美だ、上品だ。
覚え=ヤ行下二の動詞「覚ゆ(おぼゆ)」の連用形。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
(私には)やはり、その場の様子が優雅に思われて、物陰からしばらく見ていたところ、
妻戸をいま少し押し開けて、月見るけしき なり。
気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
(その家の女性は、あるお方が帰った後も、)妻戸をもう少し開けて、月を見ている様子である。
やがてかけこもらましか ば、口惜しから まし。
やがて=副詞、すぐに。そのまま。
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。事実とは反する仮定(仮想)を表す。「ましかば~まし。」あるいは「せば~まし。(「せ」は過去の助動詞「き」の未然形)」という形で反実仮想として使われる。「もし~ならば、~だろうに。」
ば=接続助詞、直前に未然形がくると④仮定条件の意味であるが、ここは反実仮想。直前が已然形だと①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれか。
口惜しから=シク活用の形容詞「口惜し」の未然形、残念だ、がっかりだ、悔しい、
もしすぐに家の中に入っていたならば、(風流でなく)残念なことであっただろう。
あとまで見る人ありとは、いかで か知らん。
いかで=副詞、(反語で)どうして
か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
客人が帰った後(の態度)まで見ている人がいるとは、(その家の女性は)どうして知っているだろうか。(いや、知っているはずがない。)
※作者はこの女性の動作が他人の目を意識したものでなく、自然の動作であったと確信している。
かやうの事は、ただ、朝夕の心づかひによるべし。
かやう=形容動詞の「かやうなり」の語幹。このよう、かくのごとく。形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語
べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。
このような事は、ただ、普段の心がけによるのだろう。
※このような事=客人が帰った後に月を見て余情にひたるという奥ゆかしい態度をとったこと。あるいはそれに加えて、わざわざ用意したものでもないお香の香り漂わせたりすること。
その人、ほどなく失せに けりと聞きはべり し。
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
はべり=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。
※「候ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
その女性は、ほどなくして亡くなったと聞きました。
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