フロンティア古典教室

『人面桃花』原文・書き下し文・現代語訳

      2017/11/10

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 

 

博陵崔護、姿質甚ニシテ而孤潔寡ナシフモノ。挙ゲラルルモ進士下第

(はく)(りょう)(さい)()姿()(しつ)(はなは)()にして、()(けつ)()もの(すく)なし。(しん)()()げらるるも、()(だい)す。

※而=置き字(順接・逆接)

博陵の崔護は、容姿も才能も大変優れていたが、高潔で世間の人と気が合わなかった。官吏登用試験の受験資格を得たが、試験に落第してしまった。

 

 

清明日、独都城、得タリ居人

(せい)(めい)()(ひと)()(じょう)(みなみ)(あそ)び、(きょ)(じん)(そう)()たり。

 

清明節の日に、一人で長安の南に出かけていき、人の住んでいる屋敷を見つけた。

 

 

一畝()ニシテ、花木叢萃、寂トシテ(ごと)キガ人。扣クコトシクス

(いっ)()(みや)にして、()(ぼく)(そう)(すい)し、(せき)として(ひと)()きがごとし。(もん)(たた)くこと(これ)(ひさ)しくす。

 

小さな屋敷で、花や木が生い茂っており、ひっそりとして人がいないかのようであった。(崔護は)門をしばらくの間叩いた。

 

 

女子()門隙、問ヒテハク。「誰()。」

(じょ)()()り、(もん)(げき)より(これ)(うかが)ひ、()ひて()はく、「(たれ)ぞや。」と。

 

(屋敷の中には)娘がいて、門の隙間から崔護をのぞき見て、尋ねて言うことには、「どなたですか。」と。

 

 

ツテ姓字ヘテハク、「尋ネテ、酒渇シテムト。」

(せい)()()つて(こた)へて()はく、「(はる)(たず)ねて(ひと)()き、(しゅ)(かつ)して(いん)(もと)む。」と。

 

(崔護が)姓と字を返答して言うことには、「春を探し求めて一人で出歩き、酒を飲んでのどが渇いたので飲み物が欲しいのです。」と。

 

 

女入リテ、以ツテ杯水、開ケテジテセシメ、独リテ小桃斜柯佇立、而意属殊

(むすめ)()りて、(はい)(すい)()(いた)り、(もん)(ひら)(しょう)(もう)けて(めい)()せしめ、(ひと)(しょう)(とう)(しゃ)()()りて(ちょ)(りつ)し、()(しょく)(こと)(あつ)し。

※「命ジテ(セ)シム」=使役、「Aに命じてB(せ)しむ」、「Aに命じてBさせる」

娘は中に入り、一杯の水を持ってきて、門を開き腰かけ椅子を用意して(崔護を)座らせ、(娘は)一人で小さな桃の木の斜めに伸びた枝に寄りかかってたたずみ、(崔護に)思いを寄せる様子がとりわけ強いようであった。

 

 

妖姿媚態、綽トシテ余妍。崔以ツテムモ()

(よう)姿()()(たい)(しゃく)として()(けん)()り。(さい)(げん)()(これ)(いど)むも、(こた)へず。

 

(その娘の)なまめかしい姿は、しとやかで優美であり、あふれるばかりの美しさがあった。崔護は娘に言葉をかけて、娘の気を引こうとした、(娘は)返事をしなかった。

 

 

目注スル者久シクス。崔辞去スルヤ、送リテ(ごと)クシテ()ルガ而入

(もく)(ちゅう)する(こと)(これ)(ひさ)す。(さい)()(きょ)するや、(おく)りて(もん)(いた)り、(じょう)()へざるがごとくして()る。

 

(娘は崔護を)しばらくの間じっと見つめていた。崔護が別れを告げると、(娘は崔護を)送って門のところまで来て、感情を抑えきれないようで(屋敷の中に)入って行った。

 

 

亦睠盻シテ而帰。嗣後絶エテ()

(さい)(また)(けん)(べん)して(かえ)る。()()()えて()(いた)らず。

※「不タ (セ)」=「復た~(せ)ず」、「決して~しない/二度とは~しない」

崔護もまた振り返って見つめて帰った。その後二度と(その屋敷を)訪れることはなかった。



来歲清明、忽、情()()カラ

(らい)(さい)(せい)(めい)()(およ)び、(たちま)(これ)(おも)ひ、(じょう)(おさ)ふべからず。

※「不カラ ~(ス)」=不可能、「 ~(す)べからず」、「(状況から見て) ~できない。/ ~してはならない。(禁止)」

翌年、晴明節の日になると、(崔護は)急に娘のことを思い出し、感情を抑えることができなかった。

 

 

チニキテヌレバ、門牆(ごと)クナルモ、而已セリ

(ただ)ちに()きて(これ)(たず)ぬれば、(もん)(しょう)(もと)ごとくなるも、(すで)(これ)()(けい)せり。

 

すぐに出かけて行って娘の屋敷を訪ねると、門と土塀はもとのとおりであったが、もはや門にかんぬきをかけて閉ざしていた。

 

 

リテ於左扉ハク

()りて()()()(だい)して()はく、

※於=置き字(対象・目的)

そこで、詩を左の扉に書きつけて言うことには、

 

 

去年今日此

(きょ)(ねん)(こん)(にち)()(もん)(うち)

 

昨年の今日、この門の中で、

 

 

人面桃花相映ジテナリ

(じん)(めん)(とう)()(あい)(えい)じて(くれない)なり

 

人の顔と桃の花とがお互いに照り映えて紅色になっていた。

 

 

人面今何レノニカ

(じん)(めん)()(いま)(いず)れの(ところ)にか()

 

あの人の顔はいったい今どこに行ってしまったのか、

 

 

桃花リテフト春風

(とう)()(きゅう)()りて(しゅん)(ぷう)(わら)ふ と。

 

桃の花は昔のまま春風にほほ笑んでいるようだ と。

 

 

後数日、偶至都城、復キテ

(のち)(すう)(じつ)(たまたま)()(じょう)(みなみ)(いた)り、()()きて(これ)(たず)ぬ。

 

その数日後、(崔護は)たまたま長安の南に行ったので、再びあの屋敷を訪ねた。

 

 

ルヲ哭声、扣キテ

()(なか)(こく)(せい)()るを()き、(もん)(たた)()ふ。

 

その屋敷の中で泣く声がするのを聞き、門をたたいてそのわけを尋ねた。

 

 

老父デテハク、「君崔護()。」

(ろう)()()り、()でて()はく、「(きみ)(さい)()(あら)ずや。」と。

※「 ~歟[邪・乎・也・哉・耶・与]」=疑問、「 ~か(や)」、「 ~か」

老父がいて、出てきて言うことには、「あなたは崔護ではありませんか。」と。

 

 

ハク、「是(なり)。」

()はく、「(これ)なり。」と。

 

(崔護が)言うことには、「そうです。」と。

 

 

又哭シテハク、「君殺セリト。」

(また)(こく)して()はく、「(きみ)()(むすめ)(ころ)せり。」と。

 

(老父が)さらに声をあげて泣いて言うことには、「あなたが私の娘を殺したのです。」と。

 

 

護驚チテ、莫フル

()(おどろ)()ちて、(こた)ふる(ところ)()()し。

 

崔護は驚き立ち上がって、何と答えてよいか分からなかった。

 

 

老父曰ハク、「吾笄年ニシテ(いま/ず)

(ろう)()()はく、「()(むすめ)(けい)(ねん)にして(しょ)()(いま)(ひと)()かず。

※「(いま/ざ) ~ (セ)」=再読文字、「未だ ~(せ)ず」、「まだ ~(し)ない」

老父が言うことには、「私の娘は十五歳で学問を身につけていましたが、まだ嫁に行っていませんでした。

 

 

()去年以来、常恍惚トシテルガ。比日()之出

(きょ)(ねん)より()(らい)(つね)(こう)(こつ)として(うしな)(ところ)()るがごとし(さき)(ごろ)(これ)()づ。

 

去年以来、いつもぼんやりとして気が抜けたような状態になりました。先日娘と出かけました。

 

 

ルニ、見左扉一レルヲ字、読リテ而病

(かえ)るに(およ)び、()()()()るを()(これ)()(もん)()りて()む。

 

帰ってくると、(門の)左の扉に字が書いてあるのを見て、それを読んで門の中に入ると病気になりました。

 

 

ツコト数日ニシテ而死セリ。吾老イタリ矣。

(つい)(しょく)()つこと(すう)(じつ)にして()せり。(われ)()いたり。

※矣=置き字(断定・強調)

そのまま食事をとらなくなって数日で死んでしまいました。私は年老いています。

 

 

一レリシ、将ニ/レバナリメテ君子ツテセント

()(むすめ)(とつ)がざりし所以(ゆえん)(もの)は、(まさ)(くん)()(もと)めて()って()()(たく)せんとすればなり。

※「(まさ/す)ニ/  ~(セ)ント」=再読文字、「将(まさ)に ~(せ)んとす」、「~しようとする・~するつもりだ」

この娘が嫁に行かなかった理由は、立派な人物を探し求めて自身の身を託そうとしていたからなのです。



今不幸ニシテ而殞。得ザルヲ君殺一レスニ()。」

(いま)()(こう)にして()す。(きみ)(これ)(ころ)すに(あら)ざるを()んや。」と。

※「 ~(セ)ン歟[邪・乎・也・哉・耶・与]」=反語、「 ~(せ)んや」、「 ~だろうか。(いや、~ない。)」

(娘は)今不幸にも死んでしまいました。あなたが娘を殺さなかったと言えましょうか。(いや、あなたが殺したようなものだ。)」と。

 

 

又特イニ。崔亦感慟、請リテスレバ、尚儼然トシテ

(また)(とく)(おお)いに(こく)す。(さい)(また)(かん)(どう)し、()()りて(これ)(こく)すれば、()(げん)(ぜん)として(しょう)()り。

 

(老父は)さらに特に大きな声で泣いた。崔護もまた深く悲しみ、頼み込んで屋敷の中に入って娘のために声をあげて泣くと、(娘の遺体は)今もなお厳かできちんとした様子で寝台の上にあった。

 

 

崔挙、枕セシメ、哭シテ而祝リテハク、「某在、某在リト。」

(さい)()(こうべ)()げ、()(もも)(まくら)せしめ、(こく)して(いの)りて()はく、「(われ)(ここ)()()(われ)(ここ)()り。」と。

 

崔護は娘の頭を持ち上げ、自分の太ももを枕にさせて、声をあげて泣いて祈って言うことには、「私はここにいますよ、私はここにいますよ。」と。

 

 

須臾ニシテ、半日ニシテキタリ矣。父大イニ、遂ツテガシム

(しゅ)()にして()(ひら)き、(はん)(にち)にして()()きたり()(おお)いに(よろこ)び、(つい)(むすめ)()つて(これ)(とつ)がしむ。

※矣=置き字(断定・強調)

しばらくして(娘は)目を開き、半日で再び生き返った。父親はたいそう喜び、そのまま娘を崔護に嫁がせた。

 

 

 

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