フロンティア古典教室

『野中兼山』原文・書き下し文・現代語訳

      2017/11/10

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 

 

野中兼山土佐ナリ。世仕国侯

()(なか)(けん)(ざん)()()(ひと)なり。(よよ)(こく)(こう)(つか)ふ。

 

野中兼山は土佐の人である。代々の土佐藩主に仕えた。

 

 

タリ江戸、及帰期()、致シテ郷人ハク

(かつ)()()()たり、()()(およ)や、(しょ)(きょう)(じん)(いた)して()はく、

 

かつて江戸にやって来て、帰る時期になると、手紙を郷里の人に送って言うことには、

 

 

「土佐トシテ()一レ()江戸ルハ、惟蛤蜊一艘(のみ)

()()(もの)として()らざる()()()より(もたら)(かえ)は、()(こう)()(いっ)(そう)()るのみ

※「() ~(のみ)」=限定、「惟だ ~のみ」「ただ ~だけ」

土佐には物として無いものはない。江戸から持って帰ろうとしているものは、ハマグリとアサリを船一艘に積んだだけである。

※土佐には物として無いものはない=あらゆる物が土佐にはある

 

 

海路幸ヒニクンバ恙、以ツテ帰日ラント。」

(かい)()(さいわ)ひに(つつが)()くんば、()(じつ)()って(これ)(おく)らん。」と。

 

船旅が幸ひにも何事もなく無事であれば、帰った日にこれを贈りましょう。

 

 

衆以ツテメント異味、計リテルヲ

(しゅう)()って()()()めんと()し、()(はか)りて(かえ)るを()つ。

 

(土佐の)人々は珍しいものを食べられると思い、日にちを数えて(兼山が)帰るのを待った。

 

 

レバジテゼシメスル於城下海中()一箇

(すで)(いた)れば(すなわ)(めい)じて()(そう)する(ところ)(じょう)()(かい)(ちゅう)(とう)ぜしめ、(いっ)()(あま)さず。

※「命ジテ(セ)シム」=使役、「Aに命じてB(せ)しむ」、「Aに命じてBさせる」

到着すると、命じて船で運んできたものを城下の海の中に投げ入れさせ、一個も残さなかった。

 

 

衆怪シミテ。兼山笑ヒテハク

(しゅう)(あや)しみて()ふ。(けん)(ざん)(わら)ひて()はく、

 

人々は不思議に思い(その理由を)尋ねた。兼山は笑って言うことには、



「此()ルノミナラ諸卿、使ムル子孫ヲシテ亦飫一レ(なり)。」

()(ひと)(しょ)(けい)(おく)るのみならず、(けい)()(そん)をして(また)(これ)()かしむるなり。」と。

※「独 ~ノミ」=限定、「ただ ~だけ」

※使=使役「使ヲシテ(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」

これはただ君たちだけに贈るのではない、君たちの子孫にもこれ(=ハマグリとアサリ)を食べ飽きさせるのだ。

 

 

()此後、果タシテ蛤蜊、遂レリ名産

(これ)より(のち)()たして(おお)(こう)()(しょう)じ、(つい)(めい)(さん)()れり。

 

この出来事があってから後、結果として多くのハマグリとアサリが繁殖し、こうして(土佐の)名産となった。

 

 

衆始メテセリ遠慮

(しゅう)(はじ)めて()(えん)(りょ)(ふく)せり。

 

人々はその時に初めて、兼山の遠い将来まで見通した深い考えに感服した。

 

 

 

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