フロンティア古典教室

『離魂記(りこんき)』(2)原文・書き下し文・現代語訳

      2017/11/10

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 前半はこちら『離魂記(りこんき)』(1)原文・書き下し文・現代語訳

 

五年、生ムモ両子、与鎰絶

(およ)()(ねん)(りょう)()()むも、(いつ)(しん)()つ。

 

(王宙と倩娘が駆け落ちしてから)およそ五年、二人の子供が産まれたが、鎰とは音信を絶っていた。

 

 

妻常父母、涕泣シテヒテハク

()(つま)(つね)()()(おも)ひ、(てい)(きゅう)して()ひて()はく、

 

その妻(=倩娘)がいつも父母のことを思い、涙を流して泣いて言うことには、

 

 

「吾曩()相負クコト、棄テテ大義而来セリ

(われ)(さき)()(あい)(そむ)くこと(あた)はず、(たい)()()てて(きみ)(らい)(ほん)せり。

※「()(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)(あた)はず」(能力がなくて) ~Aできない」

「私は以前、(あなたの気持ちに)そむくことができず、両親に対する義理を捨ててあなたのもとへ逃げて来ました。

 

 

リテ五年、恩慈間阻。覆載()下、胡アリテセン()。」

(いま)(いた)りて()(ねん)(おん)()(かん)()す。()(さい)(もと)(なん)(かんばせ)ありて(ひと)(そん)せんや。」と。

 

現在に至るまで五年、親子の恩愛が隔たっています。この世で、どんな顔をしてただ生きいることができようか。(いや、できない。)」と。

 

 

宙哀レミテハク、「将ラント。無カレトシムコト。」

(ちゅう)(これ)(あわ)れみて()はく、「(まさ)(かえ)らんとす。(くる)しむこと()かれ。」と。

※「(まさ/す)ニ/  ~(セ)ント」=再読文字、「将(まさ)に ~(せ)んとす」、「~しようとする・~するつもりだ」

※「無カレスル(コト)」=禁止、「Aしてはならない」

宙もかわいそうに思って、「帰ることにしよう。苦しむことはないよ。」と言った。

 

 

衡州

(つい)(とも)(こう)(しゅう)(かえ)る。

 

こうして一緒に衡州に帰った。

 

 

、宙独身先、首メニ

(すで)(いた)り、(ちゅう)独身(ひとり)()(いつ)(いえ)(いた)り、(はじ)めに()(こと)(しゃ)す。

 

着くと、宙一人で先に鎰の家へ行き、まず最初に駆け落ちしたことについて謝罪した。



鎰曰ハク、「倩娘病ミテルコト閨中数年、何詭説スル()。」

(いつ)()はく、「(せん)(じょう)()みて(けい)(ちゅう)()ること(すう)(ねん)(なん)()()(せつ)するや。」と。

 

(ところが、)鎰が言いうことには、「倩娘は病気になって寝室にいること数年になる、どうしてそのようなでたらめを言うのか。」と。

 

 

宙曰ハク、「見リト舟中。」

(ちゅう)()はく、「(げん)(しょう)(ちゅう)()り。」と。

 

宙は、「実際に(今、倩娘は)舟の中にいます。」と言った。

 

 

鎰大イニ、促シテ使ヲシテ一レ

(いつ)(おお)いに(おどろ)き、(うなが)して(ひと)をして(これ)(けん)せしむ。

※使=使役「使ヲシテ(セ)」→「AをしてB(せ)しむ」→「AにBさせる」

鎰は大いに驚いて、急いで使いの者にこのことを確かめさせた。

 

 

タシテ倩娘ルヲ船中

()たして(せん)(じょう)(しょう)(ちゅう)()るを()る。

 

その結果、倩娘が船の中にいるのを見た。

 

 

顔色怡暢、訊ネテ使者ハク、「大人安キヤヤト。」

(がん)(しょく)()(ちょう)使()(しゃ)(たず)ねて()はく、「(たい)(じん)(やす)きや(いな)や。」と。

 

(倩娘は)顔色もにこやかでのびのびとしており、使者に尋ねて、「お父様はお元気ですか。」と言った。

 

 

家人異シミ、疾走シテ

()(じん)(これ)(あや)しみ、(しっ)(そう)して(いつ)(ほう)ず。

 

使いの者もこのことを不思議に思って、急いで帰って鎰に報告した。

 

 

室中女聞、喜ビテ而起、飾、笑ヒテ而不

(しつ)(ちゅう)(むすめ)()き、(よろこ)びて()ち、(しょう)(かざ)(ころも)(あらた)め、(わら)ひて(かた)らず。

※而=置き字(順接・逆接)

部屋の中の娘(=もう一人の倩娘)はこのことを聞くと、喜んで起き上がり、化粧をして着物を着替え、ほほ笑んで何も言わない。

 

 

デテ相迎、翕然トシテ而合シテ一体、其衣裳皆重ナル

()でて(とも)(あい)(むか)へ、(きゅう)(ぜん)として(がっ)して(いっ)(たい)()()()(しょう)(みな)(かさ)なる。

 

出て行って(倩娘が)お互いに迎え合うと、ぴったりと合わさって一体となり、その衣装までも皆重なった。

 

 

家以ツテ一レルヲナラ

()(いえ)(ごと)(せい)ならざるを()つて(これ)(かく)す。

 

その家では事が異常だったので、このことを隠していた。

 

 

親戚間、有カニ

()(しん)(せき)(あいだ)(ひそ)かに(これ)()(もの)()り。

 

ただ親戚の中に、ひそかにこのことを知っている者がいた。



後四十年、夫妻皆喪。二男並ビニ孝廉擢第丞・尉

(のち)()(じゅう)(ねん)(あいだ)に、()(さい)(みな)(ほろ)ぶ。()(だん)(なら)びに(こう)(れん)(てき)(だい)(じょう)()(いた)る。

 

その後四十年の間に、(王宙と倩娘の)夫妻は二人とも亡くなった。二人の息子もそろって孝廉の試験に合格し、県丞と県尉(の地位)にまでなった。

 

 

玄祐少キトキケドモ、而多異同、或イハナルコトヲ

(げん)(ゆう)(わか)きとき(つね)()(せつ)()けども()(どう)(おお)く、(ある)いは()(きょ)なること(おも)ふ。

 

私(=玄祐)は若い頃によくこの話を聞いたが、話によって色々と違ったところがあるので、おそらく作り話だと思っていた。

 

 

大暦末、遇莱蕪県令張仲規。因リテ本末

大暦(たいれき)(すえ)(らい)()(けん)(れい)(ちょう)(ちゅう)()()ふ。()りて(つぶさ)()の本末を()ぶ。

 

大暦の末に、莱蕪の県令の張仲規に会った。そこで詳しくこの話の一部始終を話してくれた。

 

 

仲規堂叔ニシテ、而説クコトメテ備悉ナリ。故

(いつ)(すなわ)(ちゅう)()(どう)(しゅく)にして、()くこと(きわ)めて()(しつ)なり。(ゆえ)(これ)(しる)す。

 

鎰は仲規の同じ一族の叔父に当たるので、話してくれたことはとても詳細であった。なのでこの事をここに記しておくことにする。

 

 

 『離魂記(りこんき)』(1)原文・書き下し文・現代語訳

 

 

 

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