フロンティア古典教室

『離魂記(りこんき)』(1)原文・書き下し文・現代語訳

   

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 

 

天授三年、清河張鎰、因リテヘス于衡州

(てん)(じゅ)(さん)(ねん)(せい)()(ちょう)(いつ)(かん)()りて(こう)(しゅう)(いえ)す。

※于=置き字(場所)

天授三年、清河の張鎰は、役人として衡州に住んでいた。

 

 

性簡静ニシテ、寡ナシ知友。無子、有女二人

(せい)(かん)(せい)にして、()(ゆう)(すく)なし。()()く、(むすめ)()(にん)()り。

 

性格は地味で物静かで、友人も少なかった。息子はおらず、娘が二人いた。

 

 

、幼女倩娘、端妍絶倫ナリ

()(ちょう)(はや)(ぼう)(よう)(じょ)(せん)(じょう)(たん)(けん)(ぜつ)(りん)なり。

 

長女は早くに亡くなり、末の娘の倩娘は、容姿が整って美しいことこの上なかった。

 

 

外甥太原王宙、幼ニシテ聡悟、美容範

(いつ)(がい)(せい)(たい)(げん)(おう)(ちゅう)(よう)して(そう)()(よう)(はん)(うるわ)し。

 

鎰の甥である太原の王宙は、幼い頃から頭がよく、容姿や態度も美しかった。

 

 

鎰常器重、毎ハク、「他時(まさ/べ)ニ/シトツテ倩娘上レ。」

(いつ)(つね)()(ちょう)し、(つね)()はく、「()()(まさ)(せん)(じょう)()(これ)(めあわ)すべし。」と。

※「(まさ/べ)ニ/シ ~(ス)」=再読文字、「当に ~(す)べし」、「~すべきである・きっと~のはずだ」

鎰は常に(王宙のことを)立派な人物だと目をかけ、いつも、「いつの日か倩娘を妻にやろう。」と言っていた。

 

 

後各長成、宙()倩娘、常スルモ於寤寐、家人莫ルコト

(のち)(おのおの)(ちょう)(せい)し、(ちゅう)(せん)(じょう)と、(つね)(ひそ)かに()()(かん)(そう)するも、()(じん)()(じょう)()こと()し。

 

その後それぞれ成長し、宙と倩娘は、常にひそかに寝ても覚めても思いあっていたが、家の者はその状況を知ることはなかった。

 

 

後有賓寮()バルル、求。鎰許。女聞キテ而鬱抑

(のち)(ひん)(りょう)(えら)ばるる(もの)()(これ)(もと)む。(いつ)(これ)(ゆる)す。(むすめ)()きて(うつ)(よく)す。

※而=置き字(順接・逆接)

その後官吏に採用された者来て、倩娘を(妻にしたいと)求めた。鎰はこれを許した。娘はこれを聞いてふさぎ込んだ。

 

 

亦深恚恨、託スルニツテシテ当調、請カント

(ちゅう)(また)(ふか)()(こん)し、(たく)するに(とう)調(ちょう)()つてして(きょう)(おもむ)かんと()ふ。

 

宙もまた深く怒り恨み、転任することを口実にして、都に行きたいと願い出た。

 

 

ムレドモ。遂

(これ)(とど)むれども()かず(つい)(あつ)(これ)()る。

 

(鎰は)宙を止めたけれども、きかなかった。とうとう旅費を十分に与えて宙を送り出した。

 

 

宙陰カニミテ悲慟、決別シテ

(ちゅう)(ひそ)かに(うら)みて()(どう)し、(けつ)(べつ)して(ふね)()る。

 

宙はひそかに恨んで嘆き悲しみ、別れを告げて舟に乗った。

 

 

日暮、至ルコト山郭数里ナリ。夜方バニシテ、宙()ネラレ

()()れ、(さん)(かく)(いた)こと(すう)()なり。()(まさ)(なか)ばにして、(ちゅう)()られず。

 

日暮れ時に、(出発して)数里ほどで山村に着いた。真夜中になっても、宙は眠れなかった。

 

 

、岸上ルヲ一人、行声甚ヤカナリ。須臾ニシテ

(たちま)()く、(がん)(じょう)(いち)(にん)()るを(こう)(せい)(はなは)(すみ)やかなり。(しゅ)()にして(ふね)(いた)る。

 

突然岸上でに誰か一人いるのが聞こえ、その足音はとても速かった。すぐに(その足音は)船のもとに着いた。

 

 

ヘバ、乃倩娘ナリ。徒行跣足ニシテ而至レリ

(これ)()へば、(すなわ)(せん)(じょう)なり。()(こう)(せん)(そく)して(いた)れり。

※而=置き字(順接・逆接)

声をかけると、なんと倩娘であった。裸足で歩いて来たのだった。

 

 

宙驚喜シテ、執リテリテタルヲ

(ちゅう)(きょう)()して(きょう)(はっ)し、()()りて()()りて()るを()ふ。

 

宙は驚き喜んで気も狂わんばかりで、(倩娘の)手を取ってどういうわけでここへやって来たのかを聞いた。

 

 

キテハク、「君厚意如クノ、寝食相感

()きて()はく、「(きみ)(こう)()()くのごとく(しん)(しょく)(あい)(かん)ず。

 

(倩娘が)泣きながら言うことには、「あなたの厚いお気持ちがこれほどのものであることは、常日頃感じておりました。

 

 

今将ニ/ルモハント、又知深情()一レルヲハラ、思ニ/ルヲシテ奉報セント

(いま)(まさ)()()(こころざし)(うば)はんとするも、(また)(きみ)(しん)(じょう)()はらざるを()り、(まさ)()(ころ)して(ほう)(ほう)せんとするを(おも)ふ。

※「(まさ/す)ニ/  ~(セ)ント」=再読文字、「将(まさ)に ~(せ)んとす」、「~しようとする・~するつもりだ」

今(両親が)、私のこの気持ちを奪おうとしていますが、またあなたの深い愛情が変わらないと知り、我が身を殺して(あなたの愛情に)報いようと思っています。

 

 

ツテ亡命シテ来奔スト。」

(ここ)()つて(ぼう)(めい)して(らい)(ほん)す。」と。

※「(ここ)()ツテ」=こういうわけで、それで

こういうわけで、故郷を捨てて逃げてきました。」と。

 

 

宙非一レ、欣躍スルコトダシ

(ちゅう)()(のぞ)(ところ)(あら)ず、(きん)(やく)すること(こと)(はなは)だし。

 

宙は思いもがけないことで、小躍りして喜ぶことこの上なかった。

 

 

倩娘于船、連夜遁。倍、数月ニシテ

(つい)(せん)(じょう)(ふね)(かく)し、(れん)()(のが)()る。(みち)(ばい)(こう)()ね、(すう)(げつ)にして(しょく)(いた)る。

 

そのまま倩娘を船に隠し、夜通し逃げた。道中を倍の速さで行き、数か月で蜀に着いた。

 

 

続きはこちら『離魂記(りこんき)』(2)原文・書き下し文・現代語訳

 

 

 

 - 未分類