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源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』解説・品詞分解(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』現代語訳(2)

 

すごく吹き出でたる夕暮れに、前栽給ふとて、

 

すごく=ク活用の形容詞「すごし」の連用形。もの寂しい、おそろしい。恐ろしいぐらい優れている。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

前栽(せんざい)=名詞、庭の植え込み、庭の木などを植えてある所。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

風がもの寂しく吹き出した夕暮れに、(紫の上が)庭の植え込みを御覧になろうとして、

 

 

脇息寄りゐ 給へ を、院渡りて見奉り 給ひて、

 

脇息(きょうそく)=名詞、ひじ掛け

 

寄りゐ=ワ行上一段動詞「寄り居る」の連用形

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

奉り=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

脇息(=ひじ掛け)に寄りかかっていらっしゃるのを、院(=光源氏)がお渡りになって(紫の上の様子を)拝見なさって、

 

 

「今日は、いとよく起きゐ給ふ める 

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。院(=光源氏)からの敬意。

 

める=婉曲の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

は=強調の係助詞

 

(院(=光源氏)は、)「今日は、たいそうよく起きていらっしゃるようだね。

 

 

この御前にては、こよなく御心もはればれしげな めり かし。」

 

御前(おまえ)=名詞、意味は、「貴人」という人物を指すときと、「貴人のそば」という場所を表すときがある。ここでは、場所(=中宮のおそば)の意味で使われている。

 

こよなく=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形、(優劣にかかわらず)違いがはなはだしいこと、格別だ。この上なく。

 

はればれしげな=ナリ活用の形容動詞「晴れ晴れしげなり」の連体形が音便化して無表記化されたもの。「~なるめり」→「~なんめり(音便化)」→「~なめり(無表記化)」。

 

めり=推定の助動詞「めり」の終止形、接続は終止形(ラ変は連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

かし=念押しの終助詞

 

この中宮(=明石の姫君)の御前では、この上なくご気分も晴れ晴れなさるようだね。」

※中宮=明石の姫君。光源氏が須磨で出会った明石の入道の娘(=明石の君)との間に生まれた子。都に引っ越すことに気おくれする明石の君に代わって、紫の上が養女として育てた。

 

 

聞こえ 給ふ

 

聞こえ=ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

と申し上げなさる。

 

 

かばかりあるをも、いとうれしと思ひ聞こえ 給へ  御気色を見給ふも、心苦しく、

 

かばかり=副詞、これだけ、これほど、このくらい

 

隙・暇(ひま)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。ここでは病気の合い間にある小康状態(=少し回復して落ち着いた状態)を指している。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

気色(けしき)=名詞、様子、状態。ありさま、態度、そぶり。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の終止形、尊敬語。動作の主体である紫の上を敬っている。作者からの敬意。

 

この程度の小康状態(=病気の合い間の少し回復して落ち着いた状態)があるのをも、たいそう嬉しいと思い申し上げていらっしゃる(光源氏の)ご様子を(紫の上は)御覧になるのも、心苦しく、



 

「つひにいかに 思し騒が 。」と思ふに、あはれなれ 

 

つひ=名詞、終わり、最後。最期、臨終。

 

いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こる。

 

思し騒が=サ行四段動詞「思し騒ぐ(おぼしさわぐ)」の未然形、「思ひ騒ぐ」の尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。紫の上からの敬意。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

あはれなれ=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の已然形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

(紫の上は、)「(私の命の)最期の時には、(光源氏は)どんなにお嘆き騒ぎになるだろう。」と思うと、しみじみと悲しいので、

 

 

おくと見る  ほどぞはかなき  ともすれば  風に乱るる  (はぎ)のうは(つゆ)

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

はかなき=ク活用の形容詞「はかなし」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。頼りない、むなしい。取るに足りない、つまらない。ちょっとした。

 

ともすれば=副詞、どうかすると、ややもすると。

 

乱るる=ラ行下二段動詞「乱る」の連体形

 

「おく」は掛詞となっており、「起く」と「置く」が掛けられている。また、「露(つゆ)」の縁語でもある。

 

※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。

掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)

①ひらがなの部分

②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語

③地名などの固有名詞

 

※縁語…ある言葉と意味上の縁のある言葉。ある言葉から連想できる言葉が縁語。

例:「舟」の縁語は「漕ぐ」「沖」「海」「釣」など

 

おくと見る  ほどぞはかなき  ともすれば  風に乱るる  萩のうは露

起きていると見える間もわずかな時間のことです。(葉の上に置いたと見るや)どうかすると風に吹き乱れ(飛ばされ)る萩の上露のような(はかない私の)命です。

 

 

げに 、折れかへりとまるべうあら 

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

べう=可能の助動詞「べし」の連用形が音便化したもの、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

本当に、風に折れ返り葉にとどまっていられそうもない(露に紫の上自身の命が)、

 

 

よそへ られ たる  さへ 忍びがたきを、見出だし給ひても、

 

よそへ=ハ行下二段動詞「寄そふ・比そふ(よそふ)」の未然形、なぞらえる、比べる。関係づける、かこつける。

 

られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

折(おり)=名詞、時、場合、機会、季節

 

さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。

 

忍びがたき=ク活用の形容詞「忍び難し(しのびがたし)」の連体形、我慢できそうもない、耐え難い

忍ぶ(しのぶ=バ行四段動詞、人目を忍ぶ、目立たない姿になる。我慢する、こらえる。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

たとえられているのまでも(悲しくて)耐えられそうにないので、(光源氏は庭先を)ご覧になっても、

 

 

ややもせば  消えをあらそふ  露の世に  後れ先だつ  ほど経ずもがな

 

ややもせば=副詞、どうかすると、ともすると

 

経(へ)=ハ行下二段動詞「経(ふ)」の未然形

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

もがな=願望の終助詞、「~があればなあ、~であってほしいものだ」

 

どうかすると、先に消えるのを争う露のようにはかない人の世に、後れて先立つ間もないようにしたいものだ。

※死ぬなら一緒に同時に死にたい。

 

 

とて、御涙を払ひあへ 給は 

 

払ひあへ=ハ行下二段動詞「払ひ敢ふ」の連用形、十分に払う、払いきる

敢ふ(あふ)=補助動詞ハ行下二、完全に~しきる、十分に~する、最後まで~する

 

給は=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の未然形、尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

宮(みや)=名詞、皇族。皇族の住居、皇居。ここでは皇后(中宮)である中宮彰子を指している。

 

と言って、お涙を拭いきれなさらない。中宮は、

 

 

秋風に  しばしとまらぬ  露の世を  たれか草葉の  上とのみ見む

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

たれ=代名詞、誰

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

秋風にしばらくもとどまらない露のようなこの世を、誰が草葉の上のことととだけ思うだろうか。



 

と聞こえ交はし給ふ 御容貌ども、あらまほしく、見るかひあるにつけても、

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である紫の上と中宮(=明石の姫君)を敬っている。作者からの敬意。

 

容貌(かたち)=名詞、名詞、姿、容貌、外形、顔つき

 

あらまほしく=シク活用の形容詞「あらまほし」の連用形、そうありたい、望ましい。理想的である、申し分ない。

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

まほしく=希望・願望の助動詞「まほし」の連用形、接続は未然形

 

かひ(甲斐・効)=名詞、効果、効き目。

 

と詠み交わしなさる(紫の上と中宮の)お姿などは、理想的で、見る価値があるにつけても、

 

 

かくて千年を過ぐす わざ もがな思さ るれ 

 

かくて=副詞、このようにして、こうして

 

過ぐす=サ行四段動詞「過ぐす」の連体形

 

わざ=名詞、こと、事の次第。おこなひ、動作、しわざ、仕事。仏事、法事、法会

 

もがな=願望の終助詞、「~があればなあ、~であってほしいものだ」

 

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である院(=光源氏)を敬っている。作者からの敬意。

 

るれ=自発の助動詞「る」の已然形、接続は未然形。「る・らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

こうして千年を過ごす方法があればなあと(光源氏は)お思いにならずにはいられないけれど、

 

 

心にかなは ことなれ 

 

かなは=ハ行四段動詞「叶ふ・適ふ(かなふ)」の未然形。思い通りになる。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

思い通りにならないことであるので、

 

 

かけとめ方なき 悲しかり ける

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

訳:「考えたりする(ような)こと」

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

悲しかり=シク活用の形容詞「悲し」の連用形

 

ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

(紫の上の命を)引きとめる方法がないことが悲しいのだった。

 

 

続きはこちら源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』解説・品詞分解(3)

 

源氏物語『御法(紫の上の死・萩の上露)』まとめ

 

 

 

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