フロンティア古典教室

枕草子『上にさぶらふ御猫は』現代語訳(2)

      2016/08/15

「黒=原文」・「青=現代語訳

解説・品詞分解はこちら枕草子『上にさぶらふ御猫は』解説・品詞分解(2)

 

「あはれ、いみじうゆるぎありきつるものを。

 

ああ、(ついこの前までは、)たいそう身体を揺すって得意げに歩いていたのに。

 

 

三月(やよい)三日、(とう)(べん)(やなぎ)かづらせさせ、(もも)の花かざしにささせ、(さくら)(ごし)にさしなどして、

 

三月三日に、頭の弁が(翁丸に)柳の髪飾りをつけさせ、桃の花のかんざしにして挿させ、桜の枝を腰に挿したりなどして、

※頭の弁=蔵人頭(くろうどのとう)、蔵人所の長官。ここでは藤原行成のことを指している。

※柳かづら=柳の枝で作った髪飾り。

 

 

ありかせ(たま)(おり)

 

歩かせなさった時には、

 

 

かかる目見むとは思はざりけむ。」などあはれがる。

 

こんな目に会おうとは(翁丸も)思わなかっただろう。」などとかわいそうに思う。

 

 

()(もの)の折は、必ず向かひ(さぶら)ふに、さうざうしくこそあれ。」など言ひて、三四日になりぬる、昼つ方、

 

「(中宮様の)お食事の際には、必ず(中宮様の方に)向いて控えていたのに、心寂しいことだわ。」などと言って、三、四日経ってしまった昼頃、

 

 

犬いみじう泣く声のすれば、

 

犬がひどく鳴く声がするので、

 

 

なぞの犬の、かく久しう鳴くにかあらむと聞くに、よろづの犬とぶらひ見に行く。

 

どのような犬が、このように長く鳴いているのであろうかと思って聞いていると、たくさんの犬が様子を見に行く。

 

 

()厠人(かわようど)なる者走りきて、「あないみじ。犬を蔵人(くろうど)二人して打ち給ふ。死ぬべし。

 

御厠人の者が走って来て、「ああ、ひどい。犬を蔵人二人がかりで叩きなさっている。死んでしまうでしょう。

※御厠人=便所掃除を担当する身分の低い女官

 

 

犬を流させ給ひけるが、帰り参りたるとて、調(ちょう)じ給ふ。」と言ふ。

 

犬を追放なさったのが、帰って参ったと言って、こらしめなさる。」と言う。

 

 

(こころ)()のことや。(おきな)(まろ)なり。

 

心配なことよ。(その犬は)翁丸である。

 

 

(ただ)(たか)(さね)(ふさ)なんど打つ。」と言へば、制しにやるほどに、からうじて鳴きやみ、

 

「忠隆、実房などが叩いている。」と言うので、止めにやるうちに、やっとのことで鳴き止み、

 

 

「死にければ、陣の外にひき捨てつ。」と言へば、

 

「死んだので、陣の外に捨ててしまった。」と言うので、

陣=宮中警護の詰所。

 

 

あはれがりなどする夕つ方、いみじげに()れ、あさましげなる犬のわびしげなるが、わななきありけば、

 

悲しんだりなどしているその夕方、ひどく腫れ上がり、驚きあきれるほどひどい様子の犬でみすぼらしそうな犬が、震えながら歩き回るので、

 

 

「翁丸か。このごろ、かかる犬やはありく。」など言ふに、

 

「翁丸か。この時間帯に、このような犬が歩き回っているものか。(いや、そのようなはずはないだろう。)」などと言うが、

 

 

「翁丸。」と言へど、耳にも聞き入れず。

 

(念のため)「翁丸。」と呼ぶけれど、(犬は)聞き入れない。

 

 

「それ。」とも言ひ、「あらず。」とも口ぐち申せば、

 

「そうだ。」とも言い、「違う。」とも口々に申すので、

 

 

()(こん)ぞ見知りたる。呼べ。」とて()せば、参りたり。

 

(中宮様が、)「右近がよく知っている。呼びなさい。」とおっしゃってお呼びになると、(右近が)参上した。

 

 

「これは翁丸か。」と見せさせ給ふ。

 

(中宮様は、)「これは翁丸か。」とお見せになる。

 

 

「似ては(はべ)れど、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。

 

(右近は、)「似てはおりますけれど、これはひどい様子でございますようだ。

 

 

また、『翁丸か。』とだに言へば、喜びてまうで来るものを、呼べど寄り来ず。

 

また、『翁丸か。』とさえ言うと、喜んで寄って参って来るが、呼んでも寄って来ない。

 

 

あらぬなめり。

 

違う犬であるようだ。

 

 

『それは打ち殺して、捨て侍りぬ。』とこそ申しつれ。

 

『翁丸は打ち殺して、捨ててしまいました。』と申していた。

 

 

二人して打たむには、侍りなむや。」

 

二人がかりで叩いたのでしたら、生きてございますでしょうか。(いや、生きてはいないでしょう。)」

 

 

など申せば、心憂がらせ給ふ。

 

などと申し上げるので、(中宮様は)残念に思いなさる。

 

 

続きはこちら枕草子『上にさぶらふ御猫は』現代語訳(3)(4)

 

枕草子『上にさぶらふ御猫は』解説・品詞分解(2)

 

枕草子『上にさぶらふ御猫は』まとめ

 

 

 

 - 未分類