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源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』解説・品詞分解(5)

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 源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

すこし御声もしづまり給へ  

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

れ=完了の助動詞「り」の已然形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

少しお声もお静まりになったので、

 

 

 おはする  とて、

 

隙・暇(ひま)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

 

おはする=サ変動詞「おはす」の連体形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あら(ラ変・未然形)む(推量の助動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

(苦しい中で)楽になる時もおありなのであろうかと思って、

 

 

宮の御湯持て寄せ給へ に、かき起こさ 給ひて、ほどなく生まれ給ひ 

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である宮を敬っている。作者からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である赤ん坊(=夕霧)を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

(母の)宮がお薬湯を持って来させなさったので、抱き起こされなさって、まもなくお生まれになった。



 

うれしと思すこと限りなきに、人に()り移し給へ (もの)()ども、

 

思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の連体形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である験者どもを敬っている。作者からの敬意。

 

る=完了の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

うれしいとお思いになることはこの上ないが、よりましにお移しになった物の怪たちが、

※よりまし=物の怪などが取りつくためのよりしろになる役のこと。

 

 

ねたがりまどふ けはひ、いともの騒がしうて、後の事、またいと心もとなし

 

まどふ=ハ行四段動詞「惑ふ(まどふ)」の連体形、心が乱れる、悩む。迷う。途方に暮れる。

 

気配(けはひ)=名詞、風情、雰囲気

 

心もとなし=ク活用の形容詞「心もとなし」の終止形、不安だ、気がかりだ。ぼんやりしている、はっきりしない。待ち遠しくて心がいらだつ、じれったい。

 

(安産を)憎く思い乱れる様子、とても騒がしくて、後産の事が、またたいそう不安である。

 

 

言ふ限りなき願ども立てさせ 給ふ   

 

させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語が来ていないときは「使役」だが、尊敬語が来ているときは文脈判断。「給ふ」と合わせて二重敬語となっており、動作の主体を敬っている。作者からの敬意。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語

 

故(け)=名詞、ため、せい、ゆえ

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

や=強調の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あら(ラ変・未然形)む(推量の助動詞・連体形)」などが省略されていると考えられる。係り結びの省略。

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

言い尽くせないほどの願などを立てさせなさったためか、

 

 

平らかに事なり果てぬれ 

 

ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

平穏無事に(後産も)終わったので、

 

 

山の座主(ざす)何くれ やむごとなき僧ども、したり顔に汗おし(のご)つつ、急ぎまかで 

 

何くれ=名詞、だれそれ。あれこれ。

 

やむごとなき=ク活用の形容詞「やむごとなし」の連体形、捨てておけない。格別だ。尊い。大切である、貴重だ。

 

したり顔に=ナリ活用の形容動詞「したり顔なり」の連用形

したり顔=名詞、得意顔、自慢げな顔つき。

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは③の意味。

 

まかで=ダ行下二段動詞「罷づ(まかづ)」の連用形、謙譲語。退出する。参る。動作の対象である光源氏を敬っている。右近からの敬意。

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

比叡山の座主や、誰それといった尊い僧たちが、得意顔に汗を拭いながら、急いで退出した。

 

 

多くの人の心を尽くしつる 日ごろの名残、少しうち休みて、今はさりとも思す

 

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

 

日ごろ=名詞、ふだん。数日間。

 

さりとも=接続詞、そうであっても。いくらなんでも。「今は~だとしてもこれからは~だろうと」といった意味。

 

思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の終止形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体を敬っている。作者からの敬意。

 

多くの人が心を尽くした普段の看病の後の余韻が、少し安らいで、今はいくらなんでも大丈夫だろうとお思いになる。

 

 

御修法などは、またまた始め添へさせ 給へ 

 

御修法(みずほう)=名詞、災いに対抗し、願いをかなえるため、加持(かじ)・祈祷(きとう)を行うこと。

 

させ=使役の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。

 

給へ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

御修法などは、また始めさせなさるけれど、

 

 

まづは、 あり、めづらしき御かしづきに、皆人ゆるべ 

 

興(きょう)=名詞、面白さ、興趣、趣き

 

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

 

かしづき=名詞、大切に育てること、大切に世話すること。

 

ゆるべ=バ行四段動詞「緩ぶ・弛ぶ(ゆるぶ)」の已然形

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

今のところは、興味があり、目新しい(赤ん坊の)お世話に、皆気がゆるんでいる。



 

院をはじめたてまつりて、()()たち、(かん)(だち)()、残るなき(うぶ)(やしな)どもの、

 

たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る(たてまつる)」の連用形、謙譲語。おそらく動作の対象である院を敬っている。作者からの敬意。

 

上達部(かんだちめ・かんだちべ)=名詞、公卿、大臣などで三位以上の人

 

なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形

 

桐壷院をはじめとして、親王方、上達部が、残ることなくお贈りになった産養い(=誕生祝い)で、

 

 

めづらかに いかめしきを、夜ごとに見ののしる

 

めづらかに=ナリ活用の形容動詞「珍らかなり(めづらかなり)」の連用形、珍しい、普通とは違う。

 

いかめしき=シク活用形容詞「厳めし(いかめし)」の連体形。おごそかだ、威厳がある、立派だ。盛大だ。恐ろしい。

 

ののしる=ラ行四段動詞「ののしる」の終止形、大声で騒ぐ、大騒ぎする。

 

珍しく立派な品々を、夜ごとに見て大騷ぎする。

 

 

さへ おはすれ 、そのほどの作法、にぎははしく めでたし

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

さへ=副助詞、添加(~までも)。類推(~さえ)。

 

おはすれ=サ変動詞「おはす」の已然形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である赤ん坊(=夕霧)を敬っている。光源氏からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

にぎははしく=シク活用の形容詞「賑ははし(にぎははし)」の連用形、富み栄えている、豊かである。にぎやかである。

 

めでたし=ク活用の形容詞「めでたし」の終止形、みごとだ、すばらしい、立派だ。魅力的だ、心惹かれる。

 

加えて男の子でいらっしゃるので、その間の(産養いの)作法は、にぎやかで立派である。

 

 

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源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

 

 

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