フロンティア古典教室

源氏物語『葵』解説・品詞分解(2)

      2016/08/20

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

あな心憂 げに、身を棄てて往に けむ。」と、

 

あな心憂=「ああ、つらい。」

あな+形容詞の語幹=感動文「ああ、~」

心憂=ク活用の形容詞「心憂し(こころうし)」の語幹、いやだ、不愉快だ。情けない、つらい。残念だ、気にかかる。

 

や=詠嘆の間投助詞

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に。

 

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

往に=ナ変動詞「往ぬ(いぬ)」の連用形、行ってしまう、去る。ナ行変格活用の動詞は「死ぬ・往(い)ぬ・去(い)ぬ」

 

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」。

 

(六条の御息所は、)「ああ、つらいことよ。なるほど、身体を捨てて、出て行ってしまったのだろうか。」と、

 

 

うつし心 なら  おぼえ 給ふ 折々もあれ

 

現し心(うつしごころ)=名詞、正気な心、平常な状態の心。

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

おぼえ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の連用形、自然に思われる、感じる、思われる。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれている。

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

折々(おりおり)=名詞、その時々、機会がある時ごと

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

正気でなくお感じになられる時も度々あるので、

 

 

 なら ことだに、人の御ためには、

 

さ=副詞、そう、その通りに、そのように。

 

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。

 

「そうでもないことでさえ、(わざわざ)他人のためには、

 

 

よさまのことをしも言ひ出でなれ 

 

よさま=ナリ活用の形容動詞「好様なり・善様なり(よさまなり)」の語幹、よい様子だ。 形容動詞の語幹+格助詞「の」=連体修飾語

 

しも=強意の副助詞。訳す際にはあまり気にしなくてもよい。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

良いようなことは言い出さない世の中なので、

 

 

ましてこれは、いとよう言ひなし べき たより なり。」

 

よう=ク活用の形容詞「良し(よし)」の連用形が音便化したもの、対義語は「悪し(あし)」。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

 

つ=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる。

 

べき=可能の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

頼り・便り(たより)=名詞、良い機会、事のついで。頼りどころ、縁故。便宜、手段。消息、手紙、訪れ。ぐあい、配置。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

ましてこれは、たいそう上手く噂を立てることができる良い機会だ。」

 

 

思すに、いと名立たしう

 

思す=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の終止形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

名立たしう=シク活用の形容詞「名立たし(なだたし)」の連用形が音便化したもの、評判になりそう、うわさになりそう。

 

とお思いになると、たいそう噂になりそうで、

 

 

ひたすら世に亡くなりて後に怨み残すは世の常のことなり

 

ひたすら=副詞、一途に、ひたむきに。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

「一途に、この世からいなくなって後に怨みを残すのは世間でよくある事だ。

 

 

それだに、人の上にては、罪深うゆゆしきを、うつつのわが身ながら

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)。

 

ゆゆしき=シク活用の形容詞「忌々し(ゆゆし)」の連体形、触れてはならない神聖なことが原義。(良くも悪くも)程度がはなはだしい。恐れ多い、不吉だ、縁起が悪い。おそろしい、気味が悪い。

 

現(うつつ)=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。

 

ながら=接続助詞、次の①の意味で使われている。

①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで

②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」

③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」

④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中

 

それでさえ、人の身の上においては、罪深く不吉であるのに、生きている状態の我が身のままで、

 

 

さる うとましきことを言ひつけらるる 宿世憂きこと。

 

さる=連体詞あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。

 

うとましき=シク活用の形容詞「疎まし(うとまし)」の連体形、いやだ。気味が悪い。

 

らるる=受身の助動詞「らる」の連体形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

 

宿世(すくせ)=名詞、宿命、前世からの因縁。前世。

 

憂き=ク活用の形容詞「憂し(うし)」の連体形、いやだ、にくい、気に食わない、つらい

 

そのようないやなことを噂される因縁のつらいことよ。

 

 

すべて、つれなき人にいかで心もかけ聞こえ 。」

 

つれなき=ク活用の形容詞「つれなし」の連体形、冷ややかだ、薄情だ、関心を示さない。平然としている、素知らぬ顔だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。

 

いかで=副詞、どうであろうとも、なんとかして。どうして、どのようにして、どういうわけで。どうにかして。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の未然形、謙譲語。動作の対象である光源氏を敬っている。六条の御息所からの敬意。

 

じ=打消意志の助動詞「じ」の連体形、接続は未然形。「いかで」の「か(疑問の係助詞)」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

もういっさい、薄情な方(=光源氏)に、どうあろうとも心をおかけ申すまい。」

 

 

思し返せ 、思ふもものをなり

 

思し返せ=サ行四段動詞「思し返す(おぼしかえす)」の已然形、「思ひ返す」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

とお考え直しになるけれど、思うまいと思うのも物思いするということなのである。

 

 

おどろおどろしきさまにはあらそこはかとなくて、月日を過ぐし 給ふ

 

おどろおどろしき=シク活用の形容詞「おどろおどろし」の連体形、恐ろしい、気味が悪い。おおげさだ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

そこはかとなく=ク活用の形容詞「そこはかとなし」の連用形、そこはかとない、これといった目的・方針もない、とりとめもない。どこかはっきりとしない。

 

過ぐし=サ行四段動詞「過ぐす」の連用形

 

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の連体形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

 

(葵の上の方は、)ひどく苦しいという様子ではなく、特に悪いこともなく、月日を過ごしなさる。

 

 

大将殿も、常にとぶらひ 聞こえ 給へ 

 

とぶらひ=ラ行四段動詞「訪ふ(とぶらふ)」の連用形、見舞う、訪れる。

 

聞こえ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の連用形、謙譲語。動作の対象である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。作者からの敬意。

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

大将殿(=光源氏)も、いつもお見舞い申し上げなさるけれど、

 

 

まさる方のいたう わづらひ 給へ 、御心のいとま なげなり

 

まさる=ラ行四段動詞「増さる・勝る(まさる)」の連体形、増える、強まる。すぐれる、勝る。

 

いたう=ク活用の形容詞「甚し(いたし)」の連用形が音便化したもの、(良い意味でも悪い意味でも)程度がひどい

 

わづらひ=ハ行四段動詞「煩ふ(わづらふ)」の連用形、苦しむ、悩む。病気になる。

 

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ(たまふ)」の已然形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。作者からの敬意。

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

いとま=名詞、休み、余暇、ひま。別れ、別れの挨拶。

 

なげなり=ナリ活用の形容動詞「無げなり」の終止形、なさそうである

 

さらに大事な方(=葵の上)がひどく患っていらっしゃるので、お気持ちの休む間もないようである。

 

 

続きはこちら源氏物語『葵(葵の上と物の怪)』解説・品詞分解(1)

 

源氏物語『葵』『葵(葵の上と物の怪)』まとめ

 

 

 

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