フロンティア古典教室

紫式部日記『若宮誕生』現代語訳(1)(2)

      2016/07/07

「黒=原文」・「青=現代語訳

解説・品詞分解はこちら紫式部日記『若宮誕生』解説・品詞分解(1)

 

十月十余日までも、()(ちょう)出でさせ(たま)はず。

 

(中宮彰子様は)十月十四日までも、御帳台(=貴人の寝所)から出なさらない。

 

 

西のそばなる()(まし)に、夜も昼も(さぶら)

 

(女房たちは)西側にある御座所に、夜も昼もお仕え申し上げている。

 

 

殿の、夜中にも(あかつき)にも、参り給ひつつ、御乳母(めのと)の懐をひき探させ給ふに、

 

道長殿が、夜中にも明け方にも、参上なさっては、御乳母の懐をお探しにな(若宮を御覧になろうとす)るが、

※殿=中宮彰子の父である藤原道長のこと。

 

 

うちとけて寝たる時などは、何心もなくおぼほれておどろくも、いといとほしく見ゆ。

 

(乳母が)気を緩めて寝ている時などは、何の心の用意もなくぼんやりと目を覚ますのも、たいそう気の毒に思われる。

 

 

心もとなき御ほどを、わが心をやりてささげうつくしみ給ふも、ことわりにめでたし。

 

(若宮は)まだ何もお分かりでないご様子なのを、(道長殿は)ご自分だけがいい気になって抱き上げてかわいがりなさるのも、当然でありすばらしい

 

 

あるときは、わりなきわざしかけ(たてまつ)り給へるを、

 

ある時には、(若宮が道長殿に)とんでもないことをしかけ申し上げなさったのを、

 

 

御紐ひき解きて、()()(ちょう)の後にてあぶらせ給ふ。

 

(道長殿は)お紐をひき解いて(直衣を脱ぎ)、御几帳の後ろであぶってお乾かしになる。

 

 

「あはれ、この宮の御尿(しと)に濡るるは、うれしきわざかな。

 

(殿は)「ああ、この若宮の御尿に濡れるのは、うれしいことだなあ。

 

 

この濡れたる、あぶるこそ、思ふやうなる心地すれ。」と、喜ばせ給ふ。

 

この濡れたのを、あぶるのは、(自分の)望みどおりになった心地がすることだ。」とお喜びになる。

 

 

(2)

 

(なか)(つかさ)の宮わたりの御ことを、御心に入れて、そなたの心寄せ有る人とおぼして、

 

中務の宮に関することに、(道長殿は)ご熱心で、(私のことを)そちらに心を寄せているものとお思いになって、

 

 

語らはせ(たま)も、まことに心の中には思ひ居たること多かり。

 

(私に)お話になるのにつけても、本当に(私の)心の中には思案していることが多くある。

 

 

行幸(みゆき)近くなりぬとて、殿の内を、いよいよつくりみがかせ給ふ。

 

(一条天皇の)行幸が近くなったということで、屋敷の中を、いっそう手入れをして立派になさる。

 

 

よにおもしろき菊の根を、尋ねつつ掘りて参る。

 

(人々は)実にすばらしい菊の根を、探し求めては掘って持って参上してくる。

 

 

色々うつろひたるも、黄なるが見所あるも、様々に植ゑたてたるも、朝霧の絶え間に見わたしたるは、

 

色とりどりに色変わりした菊も、黄色で見所のある菊も、さまざまに植えこんである菊も、朝霧の絶え間に見渡した景色は、

 

 

げに老いもしぞきぬべき心地するに、なぞや。

 

実に老いも退きそうな気持ちがするのに、なぜだろうか。(私のように物思いをすることが多い身には素直に喜べない。)

 

 

まして、思ふことの少しもなのめなる身ならましかば、

 

まして、(私が)物思いをすることが少しでも普通の身であったら、

 

 

すきずきしくももてなし若やぎて、常なき世をも過ぐしてまし。

 

(いっそのこと)風流にもふるまい、若々しくなって、無常なこの世をも過ごしただろうに。

 

 

めでたきこと、おもしろき事を見聞くにつけても、ただ思ひかけたりし心のひく方のみ強くて、

 

すばらしいことや、面白いことを見聞きするにつけても、ただ思いつめた心に引きつける方ばかりが強くて、

 

 

もの憂く、思はずに、嘆かしき事のまさるぞ、いと苦しき。

 

なんとなく憂鬱で、思いがけず、嘆かわしいことが多くなるのは、とてもつらい。

 

 

いかで、今はなほ、もの忘れしなむ、思ひがひもなし、罪も深かりなど、

 

どうにかして、今はやはり、何もかも忘れてしまおう、思っても意味のないことだ、(こんなことでは)罪も深いことであるなどと、

 

 

明けたてば、うちながめて、水鳥どもの思ふことなげに遊び合へるを見る。

 

夜が明けると、ぼんやりと外を眺めて、水鳥たちが物思いすることもなさそうに遊び合っているのを見る。

 

 

水鳥を  水の上とや  よそに見む  我も浮きたる  世を過ぐしつつ

 

水鳥を水の上(で物思いもせずに遊んでいる)と自分とは関係のないよそごとだと見ようか。(いや、そのように見はしない)。私も(水鳥と同じように)水に浮いたような不安で落ち着かない日々を送っているのだよ。

 

 

かれも、さこそ心をやりて遊ぶと見ゆれど、

 

あの水鳥も、あのように思うまま自由に遊んでいると見えるけれど、

 

 

身はいと苦しかんなりと、思ひよそへらる。

 

その身はたいそう苦しいのだろうと、(自分自身と)思い比べずにはいられない。

 

 

紫式部日記『若宮誕生』解説・品詞分解(1)

 

紫式部日記『若宮誕生』解説・品詞分解(2)

 

紫式部日記『若宮誕生』まとめ

 

 

 

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