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『人虎伝』(4.2)原文・書き下し文・現代語訳

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

まとめはこちら『人虎伝』まとめ

 

虎曰ハク、「我旧文数十編(いま/ず)ハレ於代

(とら)()はく、「(われ)(きゅう)(ぶん)(すう)(じっ)(ぺん)()り。(いま)()(おこな)はれず。

※「(いま/ず) ~ (セ)」=再読文字、「未だ ~(せ)ず」、「まだ ~(し)ない」   ※於=置き字(場所)

虎が言うことには、「私には以前に作った詩文が数十編ある。まだ世間で読まれていない。

 

 

リト遺藁(まさ/べ)散落。君為伝録セヨ

()(こう)()りと(いえど)も、(まさ)(ことごと)(さん)(らく)すべし。(きみ)()(ため)(でん)(ろく)せよ。

※当=再読文字、「当(まさ)に~べし」「~すべきである・きっと~のはずだ」

残っている原稿はあったとしても、きっとすべてばらばらに散っているはずだ。君が私のために記録してくれ。

 

 

()ルモスルコト文人()口閾、然レドモフルヲ於子孫(なり)。」

(まこと)(ぶん)(じん)(こう)(いき)(れっ)すること(あた)はざるも、(しか)れども()()(そん)(つた)ふるを(たっと)ぶなり。」と。

※「不(スル)(コト)」=不可能、「 ~(する)(こと)(あた)はず」(能力がなくて) ~Aできない」

実を言うと文人たちのうわさにならないとしても、それでも子孫に伝わることを重んじているのである。」と。

 

 

傪即ジテ、隨ヒテカシム

(さん)(すなわ)(ぼく)()(ふで)(めい)じて、()(くち)(したが)ひて()かしむ。

※「命ジテ(セ)シム」=使役、「Aに命じてB(せ)しむ」、「Aに命じてBさせる」

傪はすぐに従僕を呼んで記録を命じて、虎の言うとおりに書き取らせた。



二十章。文甚、理甚。閲シテ而歎ズル者、至于再三

()(じっ)(しょう)(ちか)し。(ぶん)(はなは)(たか)く、()(はなは)(とお)し。(けみ)して(たん)ずる(こと)(さい)(さん)(いた)る。

※而=置き字(順接・逆接)  ※于=置き字

ニ十編近くあった。文章はとても格調高く、内容も非常に深いものだった。読んで感嘆することが、何度もあった。

 

 

虎曰ハク、「此平生()(なり)

(とら)()はく、「()()(へい)(ぜい)(ぎょう)なり。

 

虎が言うことには、「これは私が以前に行った仕事である。

 

 

又安クンゾメテ而不一レルヲ。」

(また)(いず)くんぞ()めて(つた)へざるを()んや。」と。

※「安クンゾ ~ (セ)ン(ヤ)」=反語、「(いづ)くんぞ ~(せ)ん(や)」、「どうして ~(する)だろうか。(いや、~ない)」

またどうして(その仕事を)途中でやめて、(世間に)伝えないでいられようか。(いや、いられない。)」と。

 

 

ニシテ又曰ハク、「吾欲ラント詩一編

(すで)にして(また)()はく、「(われ)()(いっ)(ぺん)(つく)らんと(ほっ)す。

 

やがてまた虎が言うことには、「私は詩を一編作ろうと思う。

 

 

サント外雖ナリト、而中無一レキヲナル

(けだ)()(そと)(こと)なりと(いえど)も、(しか)(うち)(こと)なる(ところ)()きを(あらわ)さんと(ほっ)す。

 

思うに、私の外見は人間とは異なるけれども、しかし中身は異なってはいないことを示したい。

 

 

スルツテヒテヒヲ、而攄ベントリヲ(なり)。」

()()つて()(おも)ひを()ひて、()(いきどお)()べんと(ほっ)するなり。」と。

 

またそこで私の思いを言って、私の憤りを述べたいと思うのである。」と。

 

 

傪復、以ケシム。詩ハク

(さん)()()(めい)じ、(ふで)()(これ)(さず)けしむ。()()はく、

※「命ジテ(セ)シム」=使役、「Aに命じてB(せ)しむ」、「Aに命じてBさせる」

傪はまた役人に命じて、筆で書かせた。その詩に言うことには、



 

偶因リテ狂疾殊類

(たまたま)(きょう)(しつ)()りて(しゅ)(るい)()

 

たまたま病気で発狂して異類のものとなってしまった。

 

 

災患相仍リテ()()カラ

(さい)(かん)(あい)()りて(のが)るべからず

 

災難が互いに重なって逃れられなかった。

 

 

今日爪牙誰ヘテセン

(こん)(にち)(そう)()(たれ)()へて(てき)せん

※「(たれ) ~ (セ)ン(ヤ)」=反語、「だれが ~だろうか。(いや、だれも ~ない。)」

今ではこの爪や牙に誰があえて挑んでこようか。(いや、こない。)

 

 

当時声跡共相高

(とう)()(せい)(せき)(とも)(あい)(たか)

 

あのころ(私と君は)名声と経歴がお互いに高かった。

 

 

異物蓬茅

(われ)()(ぶつ)()(ほう)(ぼう)(もと)

 

(しかし、)私は獣となって草むらの中にいる。

 

 

リテ気勢豪ナリ

(きみ)(すで)(よう)()りて()(せい)(ごう)なり

 

君はすでに(高官となって)馬車に乗り、その勢いは盛んである。

 

 

溪山対明月

()(ゆう)(けい)(ざん)(めい)(げつ)(むか)

 

今夜はこの山谷の中で、名月に向かい、

 

 

()シテ長嘯ストユルヲ

(ちょう)(しょう)()さずして()()ゆるを()すと

 

声を長く引いて歌うこともできずに、ただ吠えるだけである  と。

 

 

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『人虎伝』まとめ

 

 

 

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