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紫式部日記『日本紀の御局』解説・品詞分解(1)

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原文・現代語訳のみはこちら紫式部日記『日本紀の御局』現代語訳(1)

 

左衛門(さいも)の内侍といふ人(はべ)

 

侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の終止形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

※「候(さぶら)ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

左衛門の内侍というひとがおります。

 

 

あやしう すずろに よから 思ひけるも、

 

あやしう=シク活用の形容詞「あやし」の連用形が音便化したもの、不思議である、変だ、妙だ。身分が低い。粗末だ、見苦しい。

 

すずろに=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形、なんとなく、わけもなく。むやみやたらである。意に反して、意に関係なく。何の関係もないさま。

 

よから=ク活用の形容詞「良し」の未然形。良い。「よし>よろし≧普通≧わろし>あし」みたいなイメージ。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

妙にわけもなく(私のことを)不快に思っていたのですが、

 

 

知り侍ら  心憂き しりうごとの、おほう聞こえ侍り 

 

え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

 

侍ら=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

心憂き=ク活用の形容詞「心憂し(こころうし)」の連体形、いやだ、不愉快だ。情けない、つらい。残念だ、気にかかる。

 

しりうごと(後言)=名詞、陰で悪口を言うこと、かげ口を言うこと。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

(それについて)心当たりのない不愉快なかげ口が、たくさん耳に入ってきました。

 

 

内裏(うち)の上の、源氏物語人に読ませ 給ひ つつ 聞こしめし けるに、

 

内裏(うち)=名詞、天皇。天皇の住まい、皇居。  ここでは「内裏の上」で一条天皇のことを指している。

 

せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す・さす・しむ」は直後に尊敬語がくると「尊敬」の意味になることが多いが、今回のように「使役」の意味になることもあるので、やはり文脈判断が必要である。直後に尊敬語が来ないときは必ず「使役」の意味である。

 

給ひ=補助動詞四段「給ふ(たまふ)」の連用形、尊敬語。動作の主体である一条天皇を敬っている。作者からの敬意。

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」の意味。

 

聞こしめし=サ行四段動詞「聞こし召す」の連用形。「聞く」の尊敬語。動作の主体である一条天皇を敬っている。作者からの敬意。「食ふ・飲む・治む・行ふ」などの尊敬語でもある。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

一条天皇が源氏物語を人に読ませなさってはお聞きになっていた時に、

 

 

「この人は日本紀をこそ読みたる べけれ。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

べけれ=推量の助動詞「べし」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

「この人(=源氏物語の作者)は、日本紀を読んでいるのだろう。

 

 

まことに才あるべし。」とのたまはせ けるを、

 

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。

 

のたまはせ=サ行下二動詞「のたまはす」の連用形、「言ふ」の尊敬語。「のたまふ」より敬意が強い。おっしゃる。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

本当に才能があるようだ」とおっしゃったのを、



 

ふと推しはかりに、「いみじう なむ 才がる。」と殿上人などに言ひ散らして、

 

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

才がる=ラ行四段動詞「才がる」の連体形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。学識がありそうにふるまう。(学問などの)才能をひけらかす。

 

言ひ散らす=サ行四段、言いふらす

散らす=補助動詞サ行四段、荒々しく…する、むやみに…する、荒々しく…する

 

(左衛門の内侍がそれ聞いて)ふと推測して「たいそう才能をひけらかしている。」と殿上人などに言いふらして、

 

 

日本紀の御局とつけたり ける

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

日本紀の御局とあだ名を付けたのでした。

 

 

いとをかしく  侍る

 

をかしく=シク活用の形容詞「をかし」の連用形。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招く(をく)」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

侍る=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連体形、丁寧語。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

たいそうおかしなことです。

 

 

このふるさとの女の前にてだに つつみ 侍る ものを

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)。強調(せめて~だけでも)。

 

つつみ=マ行四段動詞「慎む・包む(つつむ)」の連用形、気兼ねする、遠慮する、つつしむ。隠す。包む。

 

侍る=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連体形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

ものを=逆接の接続助動詞、接続は連体形。「もの」がつく接続助詞はほぼ逆接、たまに順接・詠嘆の時がある

 

私の実家の侍女の前でさえ、(漢籍を読むことは)つつしんでいますのに、

 

 

さる所にて、才さかし出で 侍ら  

 

さる=連体詞あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。

 

さかし出で=ダ行下二段動詞「さかし出づ」の連用形、自分の賢さなどをひけらかす。

賢し(さかし)=シク活用の形容詞、利口ぶっている、小賢しい。しっかりしている。利口だ、優れている。

 

侍ら=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

む=推量の助動詞「む」の終止形形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

よ=間投助詞

 

そんな所(=宮中)で、学識をひけらかしたりしましょうか。

 

 

この式部の丞という人の、童て書読み侍り 時、聞きならいつつ

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復「~しては~」または②継続「~し続けて」の意味。

 

実家の式部丞(=紫式部の弟の惟規)という人が、子どものころに漢籍を読んでいました時、(私はそのそばで)聞き習っていて、

 

 

かの人は遅う読みとり、忘るる所も、あやしきまで さとく 侍り しか 

 

あさましき=シク活用の形容詞「あさまし」の連体形。驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。なさけない、嘆かわしい。あまりのことにあきれる。

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

さとく=ク活用の形容詞「さとし」の連用形、理解が早い、賢い

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

式部丞は読み取るのが遅く、忘れたりする部分でも、(私は)不思議なくらいに早く理解しましたので、

 

 

書に心入れたる親は、「口惜しう、男て持たら  こそなかり けれ。」

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

口惜しう=シク活用の形容詞「口惜し」の連用形が音便化したもの、残念だ、がっかりだ、悔しい

 

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

なかり=ク活用の形容詞「無し」の連用形

 

けれ=詠嘆の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

漢籍に熱心だった父親は、「残念なことに、(この子が)男の子でなかったことは幸せがなかったなあ。」

 

 

、つねに嘆か 侍り 

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。動作の主体である親を敬っている。作者からの敬意。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の連用形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

と、いつも嘆かれていました。



 

それを、「男だに才がり ぬる人はいかに  

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)。強調(せめて~だけでも)。

 

才がり=ラ行四段動詞「才がる」の連用形。学識がありそうにふるまう。(学問などの)才能をひけらかす。

 

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

 

いかに=副詞、どんなに、どう。どれほど。

 

ぞ=強調の係助詞

 

や=疑問の係助詞

 

それなのに、「男でさえ、学識をひけらかしてしまう人は、どうしてか。

 

 

はなやかなら のみ侍る める 。」

 

華やかなら=ナリ活用の形容動詞「華やかなり」の未然形、はなやかである、栄えている、きわだっている

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

侍る=侍り=ラ変動詞「侍り(はべり)」の終止形、「あり・居り」の丁寧語。

 

める=推定の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。

 

よ=間投助詞

 

出世して栄えることはないだけのようですよ。」

 

 

と、やうやう人のいふも聞きとめてのち、一といふ文字をだに書きわたし侍ら 

 

やうやう=副詞、だんだん、しだいに

 

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。添加(~までも)。強調(せめて~だけでも)。

 

侍ら=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の未然形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

 

と、だんだんと人の言うことを聞きとめてから後は、「一」という文字さえ書いて人に見せませんし、

 

 

いと手づつに あさましく 侍り

 

手づつに=ナリ活用の形容動詞「手づつなり」の連用形、下手だ、不器用だ、不調法だ。

 

あさましく=シク活用の形容詞「あさまし」の連用形。驚きあきれる、意外でびっくりすることだ。なさけない、嘆かわしい。あまりのことにあきれる。

 

侍り=補助動詞ラ変「侍り(はべり)」の終止形、丁寧語。言葉の受け手である読者を敬っている。作者からの敬意。

 

たいそう不器用で、あきれるほどです。

 

 

『日本紀の御局』まとめ 

 

 

 

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