フロンティア古典教室

伊勢物語『東下り』解説・品詞分解(2)

      2015/11/03

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 

 

ゆきゆきて駿河(するが)の国にいたり

 

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

(それから東へと旅を)さらに進めて行って駿河の国に到着した。

 

 

宇津の山にいたりて、わが入らとする道は、いと暗う 細きに、

 

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

 

暗う=ク活用の形容詞「暗し」の連用形が音便化したもの

 

細き=ク活用の形容詞「細し」の連体形

 

宇津野山に着いて、自分が踏み入ろうとする道は、たいそう暗く細い上に、

 

 

(つた)かへでは茂り、もの心細くすずろなるめを見ることと思ふに、修行者(すぎやうざ)会ひ たり

 

もの心細く=ク活用の形容詞「もの心細し」の連用形、なんとなく心細い、頼りなく不安である。「もの」は接頭語であり、「なんとなく」と言った意味が加わる。

 

すずろなる=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま

 

会ひ=ハ行四段動詞「会ふ」の連用形。主語は修行者であり、「修行者が(やって来て、男に)出会った。」という訳になる。

 

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

 

つたやかえでが茂り、なんとなく心細く、思いがけない(つらい)目に合うことだと思っていると、修行者が(やって来て、男に)出会った。

 

 

かかる道は、いかで  いまする。」

 

かかる=ラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう

 

いかで=副詞、(反語で)どうして

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

 

いまする=サ変動詞「います」の連体形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。いらっしゃる、おいでになる。「あり・居り・来・行く」の尊敬語である。動作の主体である男を敬っている。修行者からの敬意。

※尊敬語は動作の主体を敬う

※謙譲語は動作の対象を敬う

※丁寧語は言葉の受け手(聞き手・詠み手)を敬う。

どの敬語も、その敬語を実質的に使った人間からの敬意である。

 

 

「このような道に、どうしていらっしゃるのですか。」

 

 

と言ふを見れ、見なり けり

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

と言うのを見ると、(なんとその修行者は、以前都で)会ったことのある人であった。

 

 

京に、その人の御もとにとて、文かきてつく。

 

都にいる、あの恋しい方のもとにと思って、手紙を書いてことづける。

※都にいる恋しく思っている人への手紙を男が書いて、知り合いだった修行者にその手紙を届けるよう頼んだということ。

 

 

駿河なる  うつの山辺の  うつつにも  夢にも人に  あはぬなりけり

 

なる=存在の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形。「なり」は直前が名詞である時、断定の意味になることが多いが、その名詞が場所を表すものであれば今回のように「存在」の意味となる。

 

うつつ=名詞、現実、現世。生きている状態、目が覚めている状態。地名の「宇津(うつ)」と「(うつつ)」を掛けている。一つの語に二つ以上の意味が込められているわけではないので、掛詞ではない。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

 

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば

駿河なるうつの山辺の(一句・二句)=「うつつ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは三句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。

序詞を探すときのポイント(あくまで参考)。

①掛詞の直前 

例:春日野の/若紫の/すりごろも(ここまでが序詞)/しのぶの乱れ/かぎりしられず(しのぶ=掛詞、しのぶずりの「しのぶ」と恋い偲ぶ「偲ぶ」が掛けられている。)

②句の末尾が「の」 

例:あしびきの/山鳥の尾の/しだり尾の(ここまでが序詞)/ながながし夜を/ひとりかも寝む

③同じ言葉が繰り返して使われている部分 

例:多摩川に/さらす手作り(ここまでが序詞)/さらさらに/なにぞこの児(こ)の/ここだかなしき

 

駿河の国にある宇津(うつ)の山辺に来ましたが、「うつ」と言うと、(うつつ)(=現実)にも夢にも恋しいあなたに会わないことだよ。

※当時の平安時代では、自分のことを強く思う人がいれば、自分の夢の中にその人が現れるということが信じられていた。つまりこの和歌では、女が自分の夢に現れないのは、その女が自分の事を忘れてしまったのだろうと勝手に考えて恨めしく思う男の気持ちが込められている。

 

 

富士の山を見れ五月(さつき)つごもりに、雪いと白う降れ

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

つごもり=名詞、末ごろ、月の下旬・最終日。晦日(つごもり)。対義語は「朔日(ついたち)」

ついたち=名詞、月の初め、上旬。月の一日目。朔日(ついたち)

 

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

富士の山を見ると、五月の末なのに、雪がたいそう白く降り積もっている。

 

 

時知らぬ  山は富士の()  いつとてか  鹿()子まだらに  雪のふるらむ

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

 

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

時節をわきまえない山は、富士の嶺だ。今をいつと思って、鹿の子模様のまだらのように雪が降っているのだろうか。

 

 

その山は、ここにたとへ、比叡の山を二十(はたち)ばかり重ねあげたら ほどして、

 

ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。

 

たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形

 

む=む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

訳:「積み重ねた(ような)ほどの高さで」

 

その山は、ここ都に例えて見ると、比叡山を二十ほども積み重ねたほどの高さで、

 

 

なりは塩尻のやうに なむありける

 

なり=名詞、形、姿

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。

 

形は塩尻のようであった。

 

 

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