古文

徒然草『花は盛りに』(1)解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら徒然草『花は盛りに』(1)現代語訳

 

 花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは

 

隈なき=ク活用の形容詞「隈なし(くまなし)」の連体形、暗い所がない、陰になる所がない、届かない所がない、余す所がない

 

ものかは=終助詞、①反語、②感動、ここでは反語。

 

(春の桜の)花は真っ盛りなのを、(秋の)月はかげりなく輝いているものだけを見るものだろうか。(いや、そうではない。)

 

 

雨に向かひて月を恋ひ、垂れ込めて春の行方知らも、なほ あはれに 情け深し。

 

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続(直前の活用形)は未然形

 

なほ=副詞、やはり。さらに。それでもやはり。

 

あはれに=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

情け=名詞、趣、風流を理解する心、風流な心。人情、思いやりの気持ち。男女の情愛、恋愛、情事。

 

雨に向かって(見えない)月を恋しく思い、簾を垂らした部屋に閉じこもって春の過ぎゆくのを知らないでいるのも、やはりしみじみと感じられて趣が深い。

 

 

咲き べきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ

 

ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

 

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

多けれ=ク活用の形容詞「多し」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。「こそ」は強調なので無視して訳す。要するに「庭などこそ見どころ多けれ。」→「庭など見どころ多し。」と考える。

 

(きっと今にも)咲きそうな梢や、散ってしおれている庭などこそが見所が多い。

 

 

歌の詞書(ことばがき)にも、「花見にまかれ  けるに、早く散り過ぎ けれ 。」とも、

 

まかれ=ラ行四段動詞「まかる」の已然形、謙譲語。退出する。参る。

 

り=完了の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

 

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

 

和歌の詞書にも、「花見に参りましたところ、すでに散ってしまっていたので。」とも、

※詞書(ことばがき)=歌の前に書きつける前置き。和歌を詠むに至った動機・背景などを書く。



 

障ることありてまから 。」なども書けは、

 

障る=ラ行四段動詞「障る(さはる)」の連体形、さしつかえる、さしさわりがある、邪魔になる

 

まから=ラ行四段動詞「まかる」の未然形、謙譲語。退出する。参る。

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

「さしつかえることがあって(花見に)参りませんで。」などとも書いているのは、

 

 

「花を見て。」と言へに劣れこと 

 

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。もう一つの「る」も同様。

 

か=反語の係助詞、結びは連体形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「あらむ」などが省略されていると考えられる。

 

は=強調の係助詞。現代語でもそうだが、疑問文を強調していうと反語となる。「~か!(いや、そうじゃないだろう。)」。なので、「~かは・~やは」とあれば反語の可能性が高い。

 

「花を見て。」と書いているのに比べて劣っていることがあろうか。(いや、ない。)

 

 

散り、月傾くを慕ふならひはさること なれ 

 

の=格助詞、二つとも用法は主格。「花散り、月傾くを」→「花散り、月傾くのを」

 

さること=もっともなこと

さる=連体詞あるいはラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。

 

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

 

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく。

 

花が散り、月が傾くのを慕う世のならわしはもっともなことであるが、

 

 

ことに かたくななる、「この枝かの枝、散り けり。今は見どころなし。」などは言ふめる

 

ことに(殊に)=副詞、特に、とりわけ。その上、なお

 

かたくななる=ナリ活用の形容動詞「かたくななり」の連体形、頑固だ、物の情趣を理解しない。教養がない、愚かである

 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

める=婉曲の助動詞「めり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定の助動詞である。婉曲とは遠回しな表現。「~のような」と言った感じで訳す。

 

特に物の情趣を理解しない人は、「この枝もあの枝も、散ってしまった。今はもう見所がない。」などと言うようだ。

 

 

よろづのことも、始め終はりこそ をかしけれ

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

をかしけれ=シク活用の形容詞「をかし」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。趣深い、趣がある、風情がある。素晴らしい。かわいらしい。こっけいだ、おかしい。カ行四段動詞「招(を)く」が形容詞化したもので「招き寄せたい」という意味が元になっている。

 

すべて何事においても、初めと終わりにこそ趣がある。

 

 

男女の情けも、ひとへに逢ひ見るをいふものかは

 

情け=名詞、男女の情愛、恋愛、情事。趣、風流を理解する心、風流な心。人情、思いやりの気持ち。

 

ひとへに=副詞、ひたすら、一途に

 

ば=強調の係助詞。強調する意味があるが、訳す際に無視しても構わない。

 

ものかは=終助詞、①反語、②感動、ここでは反語。

 

男女の恋愛も、ひたすら会うことだけを言うものだろうか。(いや、そうではない。)

 

 

逢はやみ  憂さを思ひ、あだなる 契りかこち、長き夜をひとり明かし、

 

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

 

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

 

し=過去の助動詞「き」の連体形

 

憂さ=名詞、つらさ

 

あだなる=ナリ活用の形容動詞「あだなり」の連体形、はかない、むだである、つまらない。誠実でない、浮気だ

 

契り(ちぎり)=名詞、約束、誓い、男女の交わり。前世からの約束、宿縁、因縁

 

かこち=タ行四段動詞「かこつ(託つ)」の連用形、不平・不満を言う、恨み嘆く。他のせいにする、口実にする、かこつける。

 

恋が成就することなく終わってしまったつらさを思い、成就しない約束を恨み嘆き、長い夜をひとりで明かし、

 

 

遠き雲井を思ひやり、浅茅が宿に昔をしのぶ こそ色好むとはいは

 

雲居/雲井(くもゐ)=名詞、雲のある所。遠く離れた所。宮中、皇居

 

しのぶ=バ行四段動詞「しのぶ(偲ぶ)」の連体形、思い慕う、恋い慕う。

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。

 

色好む=恋の情趣を理解する

 

め=推量の助動詞「む」の已然形、接続は未然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

 

遠く離れた所(に居る恋人の事)を思いやり、浅茅(あさぢ)が生い茂っている荒れた家で昔を思いしのぶ、ということこそ、恋の情趣を理解すると言うのだろう。



 

望月(もちづき)隈なきを千里の外まで眺めたるよりも、暁近くなりて待ち出でたるが、

 

望月(もちづき)=名詞、満月、十五夜の月

 

隈なき=ク活用の形容詞「隈なし(くまなし)」の連体形、暗い所がない、陰になる所がない、届かない所がない、余す所がない

 

ながめ=下二段動詞「眺む(ながむ)」の連用形、じっとみる、眺める。物思いに沈む。

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

満月のかげりがなく輝いているのをはるか遠くの方まで眺めているよりも、明け方近くになって、待ちに待ってようやく出て来た月が、

 

 

いと心深う、青みたる やうにて、深き山の杉の梢に見えたる木の間の

 

心深う=ク活用の形容詞「心深し」の連用形が音便化したもの。風情がある、趣が深い、思慮深い

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

やうに=比況の助動詞「やうなり」の連用形

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

影(かげ)=名詞、光。姿、形。鏡や水などに移る姿、映像

 

とても趣が深く、青みを帯びているようで、深い山の杉の梢(の辺り)に見えている木と木の間の月の光、

 

 

うちしぐれ たるむら雲隠れのほど、またなく あはれなり

 

うちしぐれ=ラ行下二段動詞「うち時雨(うちしぐる)」の連用形、時雨が降る。涙が出る、涙ぐむ。「うち」は接頭語、「ちょっと・すこし」などの意味があるが、あまり気にしなくてもよい。

 

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

またなく=ク活用の形容詞「またなし」の連用形、またとない、二つとない、この上ない

 

あはれなり=ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

 

少し時雨(しぐれ)が降った群雲(むらくも)に隠れている(月の)様子が、この上なくしみじみと趣深い。

 

 

椎柴(しひしば)・白樫(しらかし)などのぬれたる やうなる葉の上にきらめきたる こそ

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

やうなる=比況の助動詞「やうなり」の連体形

 

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

 

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び。結びは「おぼゆれ」である。

 

椎の木や白樫などの濡れているような葉の上に(月が)きらめいているのは、

 

 

身にしみて、心あらもがなと、都恋しう おぼゆれ

 

む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「情趣を解する(ような)友」

 

もがな=願望の終助詞、「~があればなあ、~であってほしいものだ」

 

恋しう=シク活用の形容詞「恋し」の連用形が音便化したもの

 

おぼゆれ=ヤ行下二段動詞「思ゆ・覚ゆ(おぼゆ)」の已然形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。「ゆ」には受身・自発・可能の意味が含まれており、ここでは「自発」の意味で使われている。訳:「(自然と)思われて」

 

身にしみて、情趣を解するような友がいればなあと、(そういう情趣を解する友人のいる)都のことが恋しく思われる。

 

 

続きはこちら徒然草『花は盛りに』(2)解説・品詞分解

 

問題はこちら徒然草『花は盛りに』(1)(前半)問題

 

徒然草『花は盛りに』まとめ

 

 

 

-古文

© 2024 フロンティア古典教室 Powered by AFFINGER5